人生100年時代の企業人事

2年に一度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」に2003年以降毎年ランキング入りしているロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授の近著であり、同僚のアンドリュー・スコット教授との共著「ライフシフト」が話題になっている。副題が「100年時代の人生戦略」となっている。リンダ・グラットン教授については邦訳されベストセラーとなった「ワークシフト」をお読みになった方も多いかもしれない。この本では、長寿時代にある先進国の国民がこれからの人生100年時代を生きるために「教育」→「仕事」→「引退」という3ステージの発想から脱却し、一生涯に2つもしくは3つのキャリアをもつマルチステージの時代に移行していくことが重要だとしている。そのためには、教育→仕事、仕事→引退という現在の2つの移行パターンから様々な移行パターンを許容できる社会へと変化しなければならないとしている。そして、そのためにはお金に換算できないいろいろな仕事ができる能力や心身の健康、家族、友人などとの良き人間関係、多様なネットワークと様々な経験に対して開かれた姿勢といった無形資産が重要であることを指摘している。もちろんお金は重要である。現在の日本における老後資金を支える制度(退職金、年金等)は寿命が65歳から70歳といった時代の産物である。定年後10~15年といった寿命を想定したものともいえよう。それがいまや日本人の寿命は男性が80歳、女性が86歳といった時代となった。その寿命は、日本を含めた先進国では10~15年でさらに2、3歳延びつつあるという。今年生まれた赤ん坊が100歳まで生きる可能性はかなり高いのである。同時に今の現役世代も確率的には結構な人が100歳まで生きる可能性があるのである。定年が仮に65歳になったとすると定年後35年といったこうした時代に老後資金はいくらあっても足りない。ある研究機関の試算では人生100年時代になると少なくとも80歳まで働き相当の貯蓄をしないと経済的に恵まれた人を除けば厳しい状況になるという。こうしたことを考えると、老後をそれまでの蓄えで賄える人はそう多くないのではないか。100年人生を想定した有形、無形資産の計画的構築が重要になるのである。ライフシフトでは、中でも無形資産が重要であり、それを仕事の生産性を高め、所得とキャリアの見通しを明るくするスキルや知識、仲間、自らのキャリアの評判といった「生産性資産」、心身の健康と心理的幸福感をもたらすワークライフバランスと愛情、友情関係といった「活力資産」、そして、様々なライフステージを生き抜くために必要な自己理解、多様なネットワーク、新しい経験を物怖じしない姿勢といった「変身資産」という3つの観点から無形資産の構築を説いている。

 こうしたことを考えると企業においても人事の大変革が必要となるのではないだろうか?ライフシフトでは、企業の課題として以下の点を挙げている。1)社員の有形資産だけでなく無形資産形成の支援 2)社員の様々な移行(仕事→教育、教育→仕事、仕事→仕事、等)を支援する 3)社員のマルチステージ人生を前提とした人事 4)仕事と家庭の関係の時代的変化を受容する 5)年齢を基準にした考えをやめる 6)社員の様々なチャレンジを容認、評価する といった点である。奥深いテーマばかりであるが、人生100年時代をにらんで今から取り組んでいかなければならないことばかりだと思う。

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