組織人事領域における新たな動き

最近、脳神経科学の知見をいろいろな分野に活かそうという動きが活発化してきている。組織人事領域においても、職場における学習・パフォーマンスの向上に関する世界最大の会員制組織であるATD(Association for Talent Development)が開催しているカンファレンスの報告を見るとそれは顕著である。ヒュウマンバリュ―という会社が毎年ホームページでカンファレンスレポートを公開しているので興味ある方はご覧いただくといいかもしれない。

さて、その中でも注目したいのが、継続的な成長のためにグロース・マインドセット(より良い自分になろうという心の持ち様)を育むことや率直で誠実な会話を行うために脳が感じる脅威を取り除くこと、そして人が変化を前向きに受け止めるための洞察支援を行うことが重要であるという点である。特に脳が脅威を感じるのを最小化することが人の能力を引出し、変化に自主的、前向きに対応できるようになる上で重要だという。そのための5つの観点は以下のようになる。これはNeuroLeadership Institute(NLI)が提唱するモデルであるが、脳が認識する潜在的な脅威や機会を5つの要素にまとめたものである。

tatus(地位):他者から見て、相対的に重要視されているか

ertainty(確実性):未来が予測できるか

utonomy(自主性):出来事に対してコントロールができると感じられるか

elatedness(関連性):他者のなかで安心していられるか、敵ではなく

友と感じられるか

 ・airness(公平性):平等に扱われていると感じているか

それぞれの頭文字をとってSCARFモデルと呼ばれているようである。この5つの観点が満たされると、人は以下のような考え方になり、継続的に変化・成長していくようになるという。

 能力は高められる、より良くなれる、失敗を恐れない、ストレッチな目標に挑戦す

 る、他人からの評価よりも自分の成長、フィードバックを求める、学ぶことが楽し

 い、成長が促進される

 こうした知見から、目標を設定し、達成できたかを測定、評価し処遇に差をつけるというこれまでのマネジメントの在り方が価値を生み出しにくくなっているのではないかという問題提起がなされている。すなわち、こうしたマネジメントスタイルがSCARFモデルにある脅威を生み出し、人を、他人からの評価が気になり自分を良く見せようとしたり、人からのフィードバックを自分を危険にさらすものと捉え、成長にブレーキをかけるといった状況に押しやっているのではないかというのである。そのため、個々人をレイティング(格付け、評価)するのをやめようという動きも出てきているという。

 脳神経科学の成果がHR領域に及ぼす影響は、今後益々広がりそうである。注目していきたい領域といえるだろう。

本コラムを含むメールマガジンを隔月で発行しております。
ご希望の方は hp_info@hpt-lab.com 宛てに、氏名、勤務先を明記の上、件名「メルマガ希望」とし、メールを送ってください。
尚、場合によりお断りさせていただく場合もございます。予めご了承下さい。