自己効力感-モチベーションマネジメントにおける新たな力点

職場における人材育成機能に関する研究成果として、業務支援、精神支援、内省支援という3つの機能の重要性をその著書「職場学習論」で世に提唱したのは東京大学の中原准教授である。そこでは、上司の役割として、精神支援と内省支援の重要性を説いていた。特に、以前話題になったリフレクション(内省)マネジメントが重要ということであり、業務支援は同僚、先輩など身近な立場からの支援が重視されていた。要は、上司の部下育成機能として、部下の精神状態を思いやり、仕事を通した経験から何を得たか、気付いたかの振返り(内省)を支援することが大事ということで、業務を指導したり教えたりは同僚、先輩社員とうまく協働することが重要ということある。しかし、モチベーションマネジメントの側面からは、最近の研究で別の指摘がなされている。それは、上司の部下マネジメントにおいては、部下が価値を感じ、意欲的に取組んでいる業務の進捗を支援することが部下のモチベーションマネジメントに重要という観点である。ハーバートビジネススクールのテレサ・アマビール教授らの研究によると、部下が職場環境や仕事をどのように認識し、それによってどのような感情を持ち、それがモチベーションにどういう影響を与えているかというインナーワークライフに留意することが大事であるという。そして、そのインナーワークライフに大きな影響を与える要素として、部下が価値を感じ意欲的に取組んでいる(遣り甲斐を感じている)業務の進捗があるとしている。これはそれによって人間の最も基本的な原動力である自己効力感が満足されるからであるとしている。自己効力感は、自分には望む目標を達成するために求められる作業をプランニングし実行する能力があるのだという信念であり、仕事を通して、人が進捗し、成功し、問題や作業を乗り越えるたびに強く育てられていくという。この自己効力感は仕事へのモチベーションに大きな影響を与えるとされており、こうした観点から上司は部下が遣り甲斐を感じている業務の進捗に気を配り、その進捗がなされるように支援することが重要としている。こうした点は、部下のモチベーションマネジメントにおいて何を重視するかという調査や従来の研究ではあまり意識されてこなかったように思える。どちらかというと、ビジョンや目標の明確化や公正な評価処遇、具体的なインセンティブといったことに脚光があたっていた。そういう面では、新たなモチベーションマネジメントの力点と言えるのでないだろうか。

 前述のインナーワークライフと仕事の進捗に影響を与える触媒的働きをする要素として、明確な目標提示、自主性付与、リソースの提供、過度でない十分な時間の提供、仕事の相互サポート環境整備、問題と成功からの学び、自由闊達なアイデア交換があり、部下が気持ちよく働け、仕事を前向きに取組む為の栄養素として、上司や同僚からの尊重、励まし、感情的サポート(自分の感情の正当性が認められて、仲間とつながっているという感覚)、職場の仲間との相互信頼や理解、愛情関係が重要ともしている。これらは従来のリーダーシップ理論で重視されてきた事柄でもある。

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