働き方改革の本質

昨年末に政府から働き改革の目玉と位置付けられている「同一労働同一賃金」のガイドライン(指針)案が提示された。日本では、パートタイム労働者の時間当たりの賃金がフルタイム労働者の6割弱に留まり、同一労働同一賃金の仕組みが定着しているドイツやフランスに比べて著しく見劣りするという実態をなんとか是正したいという政府の意気込みが伝わってくる。今回のガイドラインでは、基本給に関して、職業経験や能力、業績・成果、勤続年数の3要素で基準を設定し、それぞれの要素で働き方を評価し、処遇するように求めている。また、賞与に関しても会社に対する貢献に対して正社員と同じ貢献であれば同じ額を支払うように求めている。さらに、役職手当や通勤費などの手当て、慶弔休暇、食堂利用などの福利厚生に関しても同一にするように求めている。こうした点については、各業界、各企業によって受け止め方は様々であるようだが、パート雇用の割合が著しく高い、流通や外食、サービスなどの業界や労働分配率が高止まりしている中小企業では悲鳴にも似た声が聞かれる。一方で長時間労働の是正の問題もある。電通事件のあおりを受けて世の中の目が一段と厳しくなりそうな気配である。今年はこうしたこともあり、働き改革の転換点とでもいうべき年になるそうな感じである。バブル崩壊後、日本企業は雇用の多様化を進め、非正規雇用を雇用の調整弁として、総額人件費抑制の切り札として都合のいいように使ってきた経緯があることは否定できまい。また、それは、社員、中でも中高年層に厳しい人事施策であったりもした。女性の活躍促進にしてもしかりである。男性目線での女性活躍ではなく、女性目線での活躍が本当に可能な職場がいくらあるだろう。さらには、生産労働人口の減少、未曽有の求人難といったこともある。

こうした状況下、日本企業の労働生産性の低さが改めて指摘されている。特にホワイトカラーの生産性については、先進諸国の中で比較するとみるべくもないと言われて久しい。また、働く人のモチベーションについても、日本は先進諸国の中では下位に位置づけられているという調査結果もある。こうしたことを考えると、「多様な価値観を受け入れるとともに人が活き活きと生産性高く働ける職場づくり」が今問われているのに違いない。ここに働き改革の本質があるといってもいいだろう。口で言うのは簡単だが、このことは、長年にわたって培われてきた日本人の人生観、労働観や仕事観に関わる問題でもあり、たやすいことではない。さらに、職場における仕事のスクラップ&ビルドと仕事の仕方変革、そしてそれを可能にするICTへの投資、活用も避けては通れない。これからの経営者には、ICT活用に関する知識やスキルが必須と言われている所以でもある。

私自身が特に危惧するのは、こうした状況が、更なる業界格差、企業間格差、地域格差を広げるのでないかということである。その意味では、これから数年のうちに淘汰されるべき業界や企業は淘汰され、新たな価値観、仕事の仕方にチャレンジし、魅力的な働き方を構築できた業界、企業のみが生き残れるといっても過言ではないだろう。残された時間は多くないのである。

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