成人に必要な二つの成長

 6月に入り、コロナと共存する生活への模索がいろいろな業界で始まっている。経営者のアンケートでは、コロナ後も在宅勤務を継続するという回答が多い。従業員へのアンケートでも同じように在宅勤務の継続を望む声が過半数以上聞かれるという調査結果が多い。しかし、仕事の面では生産性やチームワークの面などで問題が多いことを指摘するものも出てきており、もろ手を挙げて賛成という状況ではないようである。リクルートマネジメントソリューションズが3月末に行ったテレワーク経験がある一般社員664名、管理者253名を対象に行った「テレワーク緊急実態調査」では、テレワークによる「仕事の質」「生活の質「業務ストレスの増減」と「テレワーク経験歴と頻度」の観点から分析を行っている。それによると、テレワークの習熟度がテレワークにおける仕事の質や生活の質、業務ストレスの増減に影響を及ぼす結果となっている。つまり、経験が浅く、実施頻度が高いグループでは、仕事と生活の質がともに低下する人が多くなるということである。半面、テレワークの経験が長く実施頻度が高いグループでは、仕事と生活の質が向上、業務ストレスも減ったという人が多っかったという。今回のテレワークは、コロナ禍での緊急事態的措置として十分な準備期間なく導入されたケースが多い。テレワークによって仕事と生活の質の低下や業務ストレス増に見舞われている人が多いのはこうした理由からであることが推測される。このことから、改善を積み重ねながらテレワークを継続することで習熟度が増せば、仕事と生活の質があがり、業務ストレスも減少することが期待できるともいえよう。この調査では、習熟度以外でテレワークの仕事と生活の質を改善する要因として、「セルフマネジメント:目指す業務成果、ゴール設定、仕事の前提見直しにおける自己裁量性と意識」「管理職層による部下の自律性を尊重する職務設計と仕事の全体像や責任・成果の明確化」「部下に対する自律支援型のマネジメント」「会社としての柔軟な人材マネジメント」があげられている。特にキーワードとして、「自律」を指摘している。テレワークにおいては自ら考え、自らを律しながら仕事をしていくということ重要であるということであろう。

こうした自律性について、アメリカの発達心理学の権威ロバート・キーガンは、成人発達理論の観点から「知性」と「意識」の発達が人の認識の枠組みを変化させ人の「器」を大きくする「垂直的成長」の重要性を指摘している。これに対して知識の量的拡大・スキルの質的向上を「水平的成長」と呼んでいる。ともすると、我々は人の成長において水平的成長を重視しがちであるが、働く人の自律性がより重視されるこれからの時代では、垂直的成長をどう促すかが重要な人の育成視点になるのではないか。ロナルド・キーガンは垂直的成長には3つの段階があるとしている。周囲からどのように見られ、どういう役割を期待されるかによって自己が形成される「環境順応型知性」の段階(上司の判断に依存した指示待ち的態度の段階)、自分自身の価値観を確立し、それに基づいて、周りの期待について判断し、選択を行える「自己主導型知性」の段階、自分の価値観、判断基準を100%正しいとは思わず、矛盾や反対意見を受け入れられる「自己変容型知性」の段階である。リモートワークにうまく対応していくには、自律性の観点から自己主導的知性、自己変容型の知性が必要であることは容易に想像できる。職場の上司・部下共に意識していきたい視点といえよう。

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