日本の労働生産性にとってキーファクター

日本の労働生産性の低さはOECDの調査をはじめとして近年様々なメディアで指摘されている。日本生産性本部がOECDデータベース等をもとに毎年分析・公表している「労働生産性の国際比較2018」によると日本の時間当たり労働生産性は47.5ドル(4733円:購買力平価換算)、就業者一人当たりで84,027ドル(837万:購買力平価換算)でOECD加盟36か国中20位となって主要先進7か国でみると最下位であり、1970年以降定番位置となっている。しかし、2012年以降では、上昇幅がトップの米国を逆転しているというデータもあるので悲観ばかりする必要はないかもしれない。何故、こんなに生産性が低いかについては様々な議論がなされている。ここでは、OECD国際成人力調査結果に基づいて考えてみたい。この調査は「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決力」という3つの分野のスキルについて24ヵ国約15万7千人のデータを国際比較したものである。この調査によると「読解力」「数的思考力」で日本は平均点トップという結果になっている。「ITを活用した問題解決力」もコンピュータ調査を受けたものでは平均点トップであったという。つまり、日本人は、基礎的能力においては大変優れているのである。一方で、エンゲージメント(従業員の会社に対する愛着心や思い入れという観点から個人と組織が対等で相互の成長に貢献し合う関係)という視点からは日本は世界でも最下位レベルという調査結果もある。これは、米ギャラップ社が2017年に発表したエンゲージメントの高い社員の割合が日本は6%しかおらず最下位というものである。こうした点から考えると、日本は労動力の質はいいが、それを活かしきれていないということが言えるのではないか。そこに日本企業の病理を見るのは私だけではあるまい。

近年の代表的なモチベーション理論にエール大学の心理学者リチャード・ハックマンらが提唱した「職務特性理論」がある。これは、働く人の内発的動機(報酬・昇進などの外部から与えられるものでなく、純粋にやりたい、取り組みたいといった内面から湧き上がるモチベーションのこと)を重視するもので、仕事における内発的動機を高める職務特性として以下の5つを上げている。①多様性(職務の遂行に必要な多様な能力)、②アイデンティティ(最初から最後まで職務に関われる)、③有用性(他者への影響力)、④自律性(自ら考え意思決定できる)、⑤フィードバック(職務成果をきちんと認識できる)の5つである。言い換えれば、こうした視点から仕事を再設計することでモチベーションが高まるということである。働き方改革においてこういう視点で取組みを行っている企業は少ないのではないか。

もう一つの観点はリーダーシップである。最近の研究では、明確にビジョンを掲げて自社・自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを奨励し、部下の学習や成長を重視する「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」と複数の人間、場合によっては全員がリーダーシップを執る「シェアード・リーダーシップ」が注目されているという。また、他者視点(顧客や取引先視点、部下の視点)にたったモチベーションという観点から「プロソーシャル・モチベーション」という考え方が内発的動機と結びつくとパフォーマンスや生産性が向上するという報告もある。

こうしたことを見ていくと、日本企業の労働生産性の病理はその組織とマネジメントの在り方であり、仕事のさせ方であることが理解できる。最近、次世代型組織として注目を集めているフレデリック・ラルーが提唱しているティール組織などもこの文脈で考えるといいかもしれない。

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