在宅勤務がもたらすもの

コロナウィルス感染対策として在宅勤務を社員に命じる企業が大企業を中心に増えている。この原稿を書いているのが3月上旬であるからこの原稿が世に出る3月末にはその影響がある程度はっきりしているかもしれない。首都圏では夏場のオリンピック対策として社員の在宅勤務体制を検討していた企業は多いと聞く。その意味ではまさに不幸中の幸いといった面もありそうである。しかし、一方で在宅勤務には以下のような問題点があることがかねてより指摘されている。

1) 社員間をはじめとするコミュニケーションがうまくいかない

これについては、TV会議やチャットツールなど様々なコミュニケーション手段が開発されている。問題は、対面コミュニケーションが重要な場合への対処であろう。また、共に働く仲間がいないことでの孤立感や、刺激の少なさ、等からくるモチベーションの維持管理問題も指摘されている。

2) 社員の労働実態を把握しにくい

在宅勤務の場合、勤怠管理やスケジュール管理などの労務管理が難しくなる点が課題として指摘されている。これもメールや電話などで勤怠を報告するルール作りやパソコンの操作ログなどで管理するなど様々な方法、手段が開発されている。問題は、働く側のオンオフの自己管理であろう。中でも労働時間に関する新たなルール作りが必要となる。現行の労基法はこうした働き方を前提としていないので、対応が難しい面も出てきそうである。

3) 社員の管理や評価がしにくい

管理職にとっては在宅勤務の場合、部下に目が行き届かなくなることが予想され、マネジメントのあり方や意識を大きく変える必要が出てくる。指示の出し方や仕事のスケジュール、納期設定、部下指導、仕事の品質チェックの仕方など対処すべきことは多い。特に、評価については、職務行動(能力の発揮具合や仕事のプロセス)が身近で見ることができない分、職務成果だけに偏った評価になりやすいことも指摘されている。また、部下の立場からすれば、自分のことをちゃんと見てくれているか、評価してくれているか不安になりやすい面もあるようである。特に若手社員や経験の浅い社員はこのような不安をいだきやすいとされている。また、同僚とつながる機会が少なくなり、人脈形成にマイナスとなるという報告もある。仕事には、この件は誰に相談すればいいかというノウフー(社内ビジネス人脈形成)といったことが重要であるが、この点をどうカバーするかということも重要なテーマとなるだろう。さらに、在宅勤務を続けているとキャリア展望が見えづらくなることも言われている。

4) セキュリティに関するリスク

在宅勤務に慎重になる理由として、情報セキュリティの問題を挙げる企業は多い。端末機器の管理や機密性の高い情報の暗号化やバックアップ、トラブル時の対応体制、適切な作業環境の設置、等々、この分野の課題は多い。

 さらにいうなら、仕事には在宅勤務に合う仕事とそうでない仕事があるといわれている。今回の在宅勤務はこのような点を十分考慮せずに実施している企業もありそうである。このように在宅勤務には対応すべき様々な課題がある。今回の各企業の取組においてこうした問題に対してどう対処し、乗り越えていくのか興味深い。まさに本当の意味での働き方改革といえるかもしれない。

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