2020年の人事変革テーマ

昨年もまた、日本企業の生産性や社員のモチベーションの低さを指摘する論調が目についた。働き方改革が喧伝され長時間の労働に厳しい目が向けられるようになりつつある中、企業は社員にいかにやる気になってもらい生産性をあげるかに頭を悩ます一年であったように思える。さて、日本企業は元来チームの和を重視した人事施策を講じてきたところが多い。また、昨今の組織では多かれ少なかれ同僚や関係部署との連携が必要な仕事も多い。そういう意味ではチームとしてのワークモチベーションをいかに高めていくかが重要となる。ここでいうワークモチベーションとは、目標に向けて行動を方向付け、活性化し、そして維持していく心理的プロセス(ミッチェル1997)をいう。しかし、従来の研究では、チームになると社会的手抜きなどの現象が起きてモチベーションが低下するというものが多い。つまり、集団全体の作業量の総和は増えるが一人当たりの作業量は減少するということである。その心理的メカニズムとして「自分一人くらい手を抜いても」といった社会的手抜きや課題遂行への努力を怠る「責任の分散」が上げられている。一方で、チームのメンバー構成次第でお互いの長所短所を認め合い、相互に補い合う「社会的補償効果」や他のメンバーの足を引っ張らないように懸命に取組む「ケーラー効果」も確認されている。さらに、チームにモチベーションをもたらす重要な要因として「チーム目標」があるという。目標設定理論では近年、その効果が明らかにされている。つまり、チームとしての目標を明確にすることでチーム構成員のやる気を引き出し、相互連携を促すことが重要ということである。

目標管理制度を導入している企業は多い。個々の取組み目標と責任を明確にしてやる気を引き出し、職務成果に基づいた処遇を行うということで広く用いられている。その理論的根拠は、目標がワークモチベーションを喚起するという目標設定理論やある職務を遂行する場合にそれがどれだけ達成可能か、達成するとどういう利益を得られるかによって意欲的に取組むかどうかが左右されるという期待理論にあることはよく知られている。しかし、前述のチーム目標の観点から個々の役割、目標と責任を設定するということが重要とされているにもかかわらず、実際にはそうなっていないケースが多いように思える。そこには、マネジメント層の組織目標設定とコミットメント形成能力の問題が根底にはあるようである。目標にはそれを受け入れ本気で達成しようというコミットメントをいかに形成するかが極めて重要であるが、そのプロセスが形骸化しているにもかかわらず個々の目標設定を形式的に行っているケースが多いのではないか。評価制度構築・運用の現場を見るにつけ最近感じることである。日本企業の生産性の低さや社員のモチベーションの低さはこういうところからもきているのではないか。また、職務成果に対しての処遇にメリハリがついていないこと、頑張っても報われない感が強いことも問題である。日本企業の賃金が上がらない原因の一つといっていいだろう。2020年、人事施策上のこうした問題にどう取り組むか大事なテーマではないかと考える。

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