非接触型コミュニケーションは万能か

コロナ禍による自粛が始まって以来、Zoomをはじめとする非接触型のコミュニケーション手段を活用することが増えた。筆者も週に数回はこうしたミーティングを行っている。しかし、いまだに画面上のコミュニケーションに違和感を覚えてなじめない面があるのも事実である。コミュニケ―ションの語源は「共通」「共有」を意味するラテン語のcomunisに由来しているそうだが、そういう観点からコミュニケーションは人々がお互いの世界観や価値観などを「共有」することを表す言葉であるといえるかもしれない。元来コミュニケーション場面では相手に直接会って話をしたり聞いたりすることによって得られた情報をもとに相互交流がなされていることが多い。ウィナーとメラビアンはこのような場面において、93%は非言語メッセージであり、そのうち55%が顔の表情や身体的動作、38%が音調であるとしている。言語的メッセージは7%にすぎないと指摘している。なかでも顔の表情が重要な意味合いを持つとしている。また、ハードウィステルは、こうした場合、65~70%は非言語によって意味の解釈、理解がなされていると推測している。つまり、対面コミュニケーションにおいては非言語の役割が大きいのである。非接触型コミュニケーションにおいては、こうした非言語的情報が画面、スピーカーを通して、多少のタイムラグを持って伝わってくる。それも画面や音声機能の制約を受けてである。特に相手の環境や状態の全体像を把握しにくいということが大きい。また、コミュニケーションを行うためには視覚と聴覚の役割が大きいが、それぞれ光の波長、音の振動を知覚して情報を受け取っている。Webを介したコミュニケーションではそれが電子的置き換えられ、画面、スピーカーを通して受容することになる。ここにもリアル場面との違いが生じているのである。1対1ならまだしも1対多という状況においては相互に受け取る情報に違いがあることをリアル場面以上に認識しておく必要がある。Web上でセミナーなどを行っている講師がよく「受講者の表情やリアクションが見えづらくやりにくい」「一方通行になりやすく、相互交流がしづらい」「場の雰囲気が作りにくい」などの苦労を語っているがこうしたことが影響していると考えられる。

 こうした点を考えると、非接触型コミュニケーションにおいてはリアルのコミュニケーションとの違いを理解したうえで、新たなノウハウやスキルが必要になることを肝に銘じておく必要があろう。私が感じている違和感もこうしたことが背景にあってのことのようである。そういうことからWeb会議の後、個別に電話やメールで補足するということを行ってそのコミュニケーションの齟齬を調整しているのは私だけではあるまい。しかし、非接触型コミュニケーションの便利さに目覚めた人々はコロナ後の日常でこの手法を手放すことは考えにくい。職場コミュニケーションの在り方は間違いなく大きく変化していくことだろう。こうした状況下でもう一つ考えておかなければならないのは、職場の人間関係の質である。非接触型コミュニケーションで行う会議などで管理者が意見を求めてもなかなか発言がなかったり、建設的な場にならなかったりとリアル場面で起こっていたことがWeb画面上でも起きているようである。ここでは、リアル場面でこれまで形成された風土や文化、人間関係の質が大きく影響する。特に心理的安全性(グーグルは無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だと信じられるかどうかと定義しており、調査の結果、社内の生産性高いチームには「心理的安全性」が培われていたことを報告している)は大変重要である。効果的な非接触コミュニケーションを行うために、是非考えていただきたい点である。

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