これからの組織人事施策のヒントは新興のIT企業にあり

 昨年はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるIT業界を代表する巨大企業の話題に事欠かない日々であったが、情報の独占、個人情報の扱い等の問題もあって批判が相次いだのは記憶に新しい。中でもフェイスブック社に対しては、特に欧米社会で厳しい論調が多かったように思える。しかし、こうした企業のサービスは今や私たちの生活に浸透しそれなくしては生活の利便性を享受できないまでになっているのも事実である。

 さて、こうした企業が創業されてからの歴史はアップル社を除けば20年前後で、ここまで驚異の成長を遂げている。近年、注目されるこうしたIT企業の成長のスピードには目を見張るものがある。その秘密を解き明かそうとする挑戦も多々形になり、書店に行けば一つのコーナーができているくらいである。それぞれ社風も異なり、経営者の個性も際立っているが、その組織人事戦略についてはあまりマスコミで紹介されていないように思える。しかし、グーグル社については、経営者や人事の責任者がその点について直接詳しく本に書いているのでお読みになった方も多いかもしれない。私が注目したのは、グーグル社では経営者の仕事として採用を最重視している点である。求める人材像を「スマート・クリエイティブ」という言葉で表現し、こうした人材を採用するためにありとあらゆる取組みを全世界で行っている。そして、採用に妥協せず貪欲に人材を求めている。スマート・クリエイティブの定義は、「自らの専門分野に関する深い知識を持ち、それを知性、ビジネス感覚や様々なクリエイティブな資質と組みわせる人物」としているが、要するに、高い専門性を持ち、ユーザー視点を持って自ら考えて主体的に行動してビジネスにおけるプロトタイプをつくるコア人材ということのようである。こうした人材は、自由を貴び、多才で幅広い興味関心領域を持ち、のめり込んで仕事するという。グーグルのような新興企業は、M&Aによって新たなビジネスソースを抱き込み成長してきた面は否めないが、こうした優秀な人材を積極的に採用し活かしてきたという事実に目をそむけてはなるまい。こうした人材を引き留め、活躍の場を提供し続けることは並大抵のことではないからである。そういう意味で、こうした企業の人材活用ノウハウを学ぶことは今後の企業の在り方を考える上で大変重要なテーマだと思われる。

 グーグル社には10の事実という経営理念がある。1)ユーザーに焦点を絞れば、他のものはみな後からついてくる 2)1つのことをとことん極めてうまくやるのが一番 3)遅いより速い方がいい 4)ウェブでも民主主義は機能する 5)情報を探したくなるのはパソコンの前にいるときだけではない 6)悪事を働かなくてもお金は稼げる 7)世の中にはまだまだ情報があふれている 8)情報のニーズはすべての国境を超える 9)スーツがなくても真剣に仕事はできる 10)「すばらしい」では足りない といったことである。この中にグーグル社員に求められる行動指針が明確になっているように思える。こうした理念のもと、スマート・クリエイティブが活躍できる待遇や環境・場、マネジメントの仕組みを整備していることが急成長の秘訣といえるのではないか。世の中、大きな変わり目にきていることを実感されている方も多いことと思われる。全く別世界だと目を閉ざすのではなくグーグルのような新興企業の組織人事施策に学ぶことは、これからの企業、そして組織と人の在り方を考える上で貴重な示唆が得られるのではないかと考える。

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