カオスの創出が時代を切り開く

 AI人材が世界的に不足している。日本もこの分野の人材育成に本格的に取り組もうとしているが、こうした人材を育成する教育の場を設けても教える先生がいないという洒落にならない深刻な状況がある。こうした中、人材獲得、離職対策のために高度付加価値人材に対して新卒入社の段階から処遇に差をつけるということに踏み切る企業が出始めている。6月3日の日経新聞でソニーがデジタル人材の初任給を最大2割増しの730万にという記事が出ていたのは記憶に新しい。ソニー以外にも、LINEでは高度人材の初年度年俸を約200万増額、ヤフーは18年に通常より年俸が5割高い高度人材の採用枠を新設、といった記事が話題を提供している。こうした動きは、人事担当者からすれば既存社員との間の不協和音を生む原因となるなど頭の痛い問題が多い。しかし、今、日本企業の人事施策は次なる時代へ向けてまさに閉塞状態にあるといってもいいと考えるのは私だけではあるまい。グローバルな人材獲得競争では、日本企業は欧米だけでなく中国や韓国企業にも後塵を拝しているし、ビジネスのデジタル化を推進できる人材の確保においてもそれは同じである。また、海外人材を日本に呼び込もうという動きに対してアセアン諸国をはじめとする国々では日本企業に対する人気が低迷しているという話もある。これらは、これまで日本企業の強みであった人事施策、人事制度の時代の変化への対応の遅れによるところも大きいのではないだろうか。その意味でも、前述のソニーやLINE、ヤフーといった企業の取組みは歓迎すべきものと考えるべきだろう。こうしたある種既存秩序の破壊?行為は、新たなうねりを作り出すきっかけになるのはないかと期待している。

 組織心理学の理論に「不均衡の理論」というのがある。これは、組織の自己変革の契機をカオスの創出に求める考え方である。つまり、組織の自己革新が求められる時代には、組織の内部にあえて不均衡を創出し、既成の秩序を自己否定する視点を作り出すことが重要という考えである。まさに不均衡増幅のマネジメントが今、求められているとはいえないか。そして、これまで築き上げてきた価値観や成功体験、秩序をアンラーニング(いったん学んだことを捨て去ること)することに取り組む必要があるのではないか。そのために、組織をゆさぶり、変革へ向けての新たな動きを作り出す強力なリーダーシップが求められている。

 日本の人事制度においては、社員の格付け機能を担う等級制度によって給与を支払う根拠を提示していることが多い。それは職能のレベルであったり、担う役割であったりするのであるが、前述の高付加価値人材を処遇する仕組みが内在していない企業がほとんどであろう。その意味で、歴史のあるソニーのチャレンジは大いに注目したいのである。歴史的に組織的な「和」を尊重してきた日本企業において、こうした取組みは大きな組織的な亀裂を生み出すかもしれない。しかし、GAFAをはじめとするニューエコノミーといっていい企業はこうした人事施策をとっている企業が多い。創造的破壊という言葉があるが、今に日本企業に求められているのはまさにそれだろう。

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