シニア人材の活躍促進のために

 15歳から64歳の年齢層は一般に生産年齢人口といわれるが、2015年段階の推計データでは7680万人(国立社会保障・人口問題研究所中位推計2012年改訂)になる。このうち就業人口は5740万人となっている。この差が1940万人。安倍首相が総裁再選会見で「長年手つかずだった日本社会の構造的課題である少子高齢化の問題に真正面から挑戦したい」として新たな3本の矢を発表した。その中で女性や高齢者、障がい者らの雇用拡大を打ち出している。つまりこの1940万人が就業する機会を増やそうというのである。一方で、これから25年で生産年齢人口は5790万人になり、1890万人減少するという予測もある。このときの就業人口は4480万人で生産年齢人口との差は1310万人である。2015年の就業人口と25年後の生産年齢人口を比べるとほぼ同じである。ここから生産年齢人口と就業人口の差を限りなく縮めて行けば労働力の維持は数字の上では何とか可能ということになる。そこで注目されているのが女性の活躍促進である。企業に女性雇用を促したり、管理職や役員への登用を義務付けようとしたりあの手この手で施策が講じられている。こうした動きの陰に隠れてあまり注目されていないのがシニア層の活躍促進である。シニアの定義はいろいろであるが、一般的には50代、60代をさすことが多い。最近は70代でも仕事を続ける人が多いから70代も対象としている企業も多いのではないか。こうしたシニア層の活用に関しては、これまで加齢による衰えや意識変革の難しさなどその使いにくさからあまり積極的な取組みがなされているとは言い難い。高齢者雇用安定法の改正によって65歳までの雇用制度維持が義務付けられたが企業はどちらかというと受け身的な対応に終始している。しかし、前述の人口動態予測を考えるとそうもいっていられない状況に近づいているといっていいだろう。折しも人手不足は有効求人倍率をみるまでもなく深刻になっている。

 こうした中、加齢に伴う生涯発達や高齢化社会における生活、人間関係、心や健康の管理、老人介護や諸制度・政策、経済などの様々な領域の問題を多面的にとらえ総合的に研究する老年学の知見を活かすという動きが出始めている。老年学の先進国アメリカでは、種々の教育機関で学際的に研究が進められ総合科学的な検討が行われている。日本では東大や桜美林大学等の取組が有名である。さて、老年学では人の能力を新しいものを学習したり覚えたりする加齢によって低下しやすい流動性能力と過去に習得した知識や経験がもとになっており加齢によって低下しにくい結晶性能力という観点から、シニア層の活躍領域を提言している。また若年層との身体的機能の比較やシニア層の働きの特性を分析してシニアにあった職場環境や労働条件の在り方を示唆している。こうした点からするとシニア層の活躍促進には、マネジメント層(特に30代、40代)が老年学における知見を理解し職場に活かす取組みが重要ではないかと考える。こうした視点でマネジメント教育をしている企業は少ないのではないか。まさに学究的取組と実務的取組の両面から成果が期待されるこれからの領域といえよう。

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