シニア社員を活かすには

近年、人事制度見直しを行うと必ずぶつかるのが、シニア社員を活かす場や職務の開発とその処遇の在り方の問題である。現在は65歳まで雇用制度を維持するために段階的にその年齢が引き上げられている。そして、それは70歳、先々は75歳までを視野に入れた対応になりそうである。こうした中で各企業、シニア層が活躍できる場や職務をどうするか頭を悩ましているのが実情であろう。従業員の平均年齢も40歳を超えている企業が多くなり、シニア社員は増加傾向にある。こうしたシニア社員の増加に伴って様々なリスクが顕在化してきている。

 1)新人採用の抑制と組織の新陳代謝の停滞

 2)労働災害発生率のアップと重症化

 3)生産性低下、病気などによる欠勤代替による負担増

 4)職場風土の悪化、若手社員の離職

 5)デジタル化対応の遅れと再教育

 6)シニア層に対する理解とマネジメントスキル不足

 7)人員構成のゆがみと総人件費の上昇

こういったリスクである。一方、シニア社員を積極的に活かしていこうという取組みも動き出している。シニア社員の処遇見直しや意識改革や能力開発といったものである。

 さて、人には、目的に合うように行動し、合理的に考え、周りの環境に効果的に働きかけて、問題を解決していく知能がある。この知能は、個人が長年にわたる経験、教育、学習などから獲得した結晶性知能(言語能力、理解力、洞察力など)と新しい環境に適応するために新しい情報を獲得し、それを処理、操作していく流動性知能(処理スピード、直観力、法則発見能力など)に分かれるという。これらはホーンとキャテルという学者が提唱したものであるが、結晶性知能は高齢になっても安定しているといわれている。一方、流動性知能は加齢によって低下しやすいとされている。しかし、両方とも60歳頃までは著しい低下は見られないという研究結果があり、それが広く認識されている。そういう意味では60歳定年というのはまんざら根拠のないものではないのかもしれない。こうした知能の面からすれば、シニア層の活用はその結晶性知能を十分考慮してものでなくてはならないだろう。つまり、その人の職場や職務経験、受けてきた教育などからどういう能力を保持しているのかを客観的に確認する必要があるということである。その上で、どういう職場でどういう職務についてもらうかを判断することが重要になる。そういう意味で、シニア層に自分の歴史を振り返ってもらい、自らの人生の意味を考え、自分にとってかけがえのない、大切なことは何かを整理してもらい、次世代に伝えてもらう作業は大変重要な意味を持つ。そして、それには組織におけるマネジメント能力に関するものと専門的職務能力に関するものの両面がある。特にシニア層はマネジメント業務から離れて、改めて専門職務能力を問われることが多くなっている。ここにおける棚卸と今後へどう活かしていくかの支援と教育が今後益々重要になると思われる。

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