ユニクロのパート・アルバイト16000人正社員化の意味するところ

3月、ユニクロを運営するファーストリテリング社におけるパート・アルバイト16000名正社員化のニュースがマスコミを賑わした。景気の回復によって長年続いた労働市場における買手優位の構造が変化し、売手優位の状況が生まれていることは昨今大きなニュースとなっている。特に建設業界や飲食やサービス、流通業界における人出不足は深刻な状況になっているという。事実、ワタミフードサービス社が人出不足を理由に2014年度中に60店舗を閉鎖し、そこで浮いた人員を残りの店舗に配転することで現場の人出不足を補うという意思決定をしたことが話題になっている。ワタミフードサービス社の場合は、その労働環境の問題がかねてから指摘されており苦渋の決断といえるだろうが、以前なら考えられないことである。また、今後の労働生産人口の減少も気になるところである。景気はしばらくは明るいのではという専門家の意見も多い中で、こうした労働市場環境の変化は今後の経営を考える上で大きな要因となる。そうした中でパート・アルバイトの正社員化の意思決定をした企業が新聞紙面を賑わしていたが、ユニクロはその規模において他社のケースとはわけが違うと考える。そのあたりの背景については日経ビジネスが、今年の3月11日、ファーストリテリングの柳井正会長兼社長が、この決断を、半年に1度同社が開催する巨大会議「FRコンベンション」の場で4100名の従業員に語りかけた一部始終を特集していたのでご存じの方もいることと思う。筆者がこのニュースを見て気になったのは、単なる正社員化の規模ではなく、柳井会長兼社長が下した180度の経営転換という中身である。筆者なりに整理すると1)これまで店長が主役としてきた方針は間違い、今後は現場の販売員が主役、販売員の熟練度を高め、販売員ひとり一人が顧客に笑顔で向き合い、最大の価値を出せるよう支えていくのが管理者や本部の役割りとなる 2)社員の幸せが実現できるように、自分の人生を自分で選択できる自己選択型のキャリアコースに見直す 3)店長が自分で店を選び、最低3年はそこで頑張る制度にし、販売員がその仕事ぶり評価をする仕組みを導入、店長は部下の主体性を引出し、支援するサーバントリーダーへ転換 といったことである。これらを全世界で展開するという。ここから読み取れるのは、顧客接点を重視し、そこを担当する販売員を主役とした会社創り(CSにおける逆ピラミッド組織の考え方か)をしていき、本部主導型のビジネスモデルから個々の市場ニーズを的確にくみ取り絶えざる変化に柔軟に、スピーディに対応していける現場主導のビジネスモデルへの転換と現場の習熟度とイノベーションが経営能率を高めるために重要で、正社員化による人件費増はそのことによってある程度吸収できるのではという意図である。そしてそうであるが故の正社員化なのである。ファーストリテリング社の今回の意思決定は、バブル崩壊後、雇用の多様化を進め非正規雇用を増やすことで人件費を抑制してきた日本企業にとって、大きな転機となる予感がするのは私だけではないだろう。柳井会長兼社長は今回の意思決定の意味合いを「Global is local, local is global.」という言葉で表現していた。なかなか意味深い言葉だと感じた。

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