中小企業の人事処遇の難しさ

最近の人事処遇の在り方として、組織において担う役割に応じて処遇するという役割等級制度の考え方が主流になりつつある。これは、組織における仕事を役割の重さの観点から格付けし直し、その役割に応じて給与を決めるというものである。当然同じ格付けの仕事なら同一給与ということになる。格付けするためには、担う役割の違いが明確にならなければならない。職務という概念があるが、この場合の役割はそれより広く、包括的なものといっていい。つまり健全な役割の格差構造が必要となるのである。社員数が数十名から300名程度の組織でこの考え方で処遇を行なおうとすると、よくぶつかる課題として、一般社員の役割を格付けすることが困難なことがある。つまり、一般社員が同一職種では同じ役割を担っており、役割の重さを定義することができないのである。一例をあげると、ある中堅商社では、営業職はみんな同じ仕事をしており、売上目標や利益目標などに差がない。新卒社員は別として、それ以外は全員同じレベルの目標を持って仕事をしている。担当エリアも担当顧客もその重要度や難易度などが考慮されておらず、ただ割り振られているだけであった。この状況で7段階の階層性を設定していた。上位層には組織的役割が付与されるのでまだしも、2等級と3等級、4等級の違いは社員に認識されていなかった。当然、評価基準もあいまいで、処遇への納得感もない状況であった。また、ある企業では、中途採用が主体で入社後は段階を経ずいきなりベテランと同じ仕事をさせていた。ここでも階層性が設定されていたが、そういう状況であるからそこでの格付け制度は機能してなかった。こうしたケースでの問題点は、組織におけるキャリアステップと役割りの違いが意識されていないということである。最初のケースでは、営業としてのキャリアにも成長のステップが存在することが現場の管理者に理解されておらず、少ない社員で幅広いエリアを担当せざるえない状況もありやむを得ない状況であった。2番目のケースでは、現場が慢性的な人出不足で余裕がなく、いきなりベテランと同じような仕事を担わさざるを得ないという事情があった。

 中小企業の処遇制度ではよくあることであるが、トップが仕事基準の成果主義を標榜して人事制度を見直したいという場合、こうした組織状況が制度を再構築しても運用を妨げるということが多い。それは、成果を生み出す社員の役割の違いを明確にしても、現場がそうなっていないことに起因する。数少ない社員、それも大企業と違って必ずしも安心して任せられる社員ばかりではない状況の中、広範な業務を担当させざる得ない中小企業では役割に基づいた成果主義を定着させることが容易ではない。年功要素や職能等の人基準を加味した処遇制度の方が納得感が高いのではないかという疑問に対峙しながら、悪戦苦闘の日々である。

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