人事労務政策の転換点

ここ数年、人事制度見直しの依頼が顧客から絶えない。理由はそれぞれであるが、共通するテーマがいくつかある。ひとつは高年齢者をどう活かしていくかである。平成25年から改正高年齢者雇用安定法が施工され、60歳を超えても雇用制度の維持が義務付けられ社員が希望すれば継続雇用しなければならなくなった。現実的には、高年齢者を活用する職域が十分に確保されている企業は少ない。つまり働きたくてもまともな仕事がないのである。特に処遇におけては、退職時の給与から大幅に削減となり昇給、賞与もないという企業も多く、働く人の意欲をそいでいる。こうした中、同一労働同一賃金の観点から定年後同じ仕事をしているのに給与を減らすのは違法であるとの判例が出た。今までの慣行が通用しなくなってきているのである。企業における総額人件費管理の面からは大きな問題である。また、女性の活躍促進の面から制度を見直す企業も多い。これまでは総合職と一般職という区分で女性に対して処遇してきた企業が多いが、女性の管理職登用や職域拡大、それに伴う能力開発という観点から女性の活躍を後押しできる制度に見直すという動きである。さらに、非正規労働者の社員化や無期雇用化という動きも流通、サービス、金融といった業界で活発化している。また、前述の女性の活躍促進の観点、親の介護から人財流出するといったことにどう対応するかといった観点、長時間労働やサービス残業に対する見直し圧力が高まってきて労働生産性をいかに高めるかが企業の重要なテーマになってきていることなどから働き方の改革に取り組まざる得ない企業も多い。また、未曽有の求人難時代に入ったこともあり、若い世代を含めた社員の離職防止に頭を悩ます企業が増え、改めて企業の魅力づくりに着手する企業も増えている。さらに、企業のグローバル化に伴い人材管理の在り方をグローバル視点に立ったタレントマネジメントの観点から見直す企業も後を絶たない。

 上記のようなビジネス界の状況だけでなく、少子高齢化に伴う国の財政や年金制度の苦境が1億総労働とでもいうべき動きとなって様々な政策に反映されつつある。厚労省は70歳定年を視野に労働施策を検討し始めているということも漏れ聞こえてくる。まさに、今は、労務・人事政策の大きな節目、転換点とでもいうべき状況にあるのである。それも従来のパラダイムでは対応できない課題が多い。

 こうした中、企業には新たな人事処遇方針の確立が求められている。その一つの柱が同一労働同一賃金である、それも日本流の。同一労働同一成果同一賃金という人もいる。日本の土壌にマッチしたものが必要ということであろう。また、高年齢者や女性、外国人に対する処遇哲学も重要なテーマとなっている。これまでの考え方ではこの分野は対応が難しい。さらに、労働生産性を高めるための新たな労働観の構築といったことも古くて新しい重要な課題である。日本人は、「道」の文化から道を究めるために労をいとわないという面が強い。それを活かしながらどう新たな働き方の価値観を形成していくか。なかなか重たいテーマばかりである。

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