人手不足の矛盾

 最近、人手不足の話題がマスコミを賑わしている。確かに有効求人倍率をみれば今年4月が1.48倍とバブル期のピーク(1990年7月)と言われている時期の有効求人倍率1.46倍を上回って過去30年では最高値となっている。こうした中で生産労働人口(15歳から64歳)が毎年減っているわけであるから、逼迫感が強くなってきているのは自明の理であろう。因みに平成29年1月段階で前年比較すると68万7000人減っている(総務省統計局調べ)。

 こうした状況に対して、現在政府として取組んでいるのが、女性、シニア層の労働参加促進施策である。ある試算では、女性の活躍促進の先進国スウェーデン並みに30代以上の女性が働けるようになれば今後350万人の労働参加が見込めるという。また、平成24年高年齢者雇用安定法の改正によって企業は65歳までの雇用制度の維持を義務付けられ、このまま推移すると2025年には60代前半の労働参加率は男性で約八割弱、女性で7割弱という数字になると予測されている(パーソナル総合研究所「労働市場の未来推計2016年」)。これを60代後半まで拡大し、労働参加を促進する施策を実行すればこの世代だけでも167万人の労働参加が期待できるという。女性とシニア合わせて500万人以上の労働参加が数字の上では可能なのである。

 こうした背景から働き方改革が謳われ、女性・シニアの活躍促進、労働時間の短縮、有休消化促進、テレワーク、時短勤務制度、週休3日、副業承認、ヤマト運輸に代表される顧客へのサービスや価格見直しといった各企業の取組みが日々伝えられている。また、新卒市場では、労働時間や働きやすさが企業選択基準の上位にくるなど働く人の意識も変化してきているようである。しかし、こうした取組みによって労働時間は短縮されるであろうが、労働生産性、特に付加価値生産性がどうかという点はあまり話題になっていないのは気になる。こうした取組みの本質は労働生産性をいかに高めていくかということのはずである。それなくして賃金の上昇は期待できない。先進諸国に比べての日本の生産性の低さは様々な機関から指摘されている。これは今に始まったことではない。ここ50年変わりないのである。一方、日本人のOECD国際成人力調査における国別平均点では、「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決力」ではOECD諸国内ではトップというデータがある。つまり日本人個々の素材は悪くないのである。また、40代以上の企業における隠れ失業者は400万人を超えるという指摘もある。こうした点を考えると、個々の「意識」と仕事の「やり方・やらせ方」「再教育」の問題が大きいのである。人材の機会損失の高さ、それが日本の生産性の低さの元凶といえよう。

 改めて、生産性改革こそが、今の苦境を解決する本筋であることを経営者は肝に銘じるべきであろう。そのためにはビジネスとテクノロジーの両立がかかせない。また、過剰品質と揶揄される今のビジネスモデルを大胆に変革する勇気も重要である。

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