人生100年時代のキャリア理論への期待

 キャリアという言葉が心理学の分野に登場したのは、スーパー(Super,1957)が「キャリアの心理学」という本を出版した1957年だといわれている。スーパーは、人生におけるキャリア発達の過程を以下の5段階に分けている。

①  成長段階(0~14歳/青年期:自己概念に関連した能力、態度、興味、欲求を

発達させる時期)

②  探索段階(15~24歳/成人初期:選択が狭まる暫定的な時期)

③  確立段階(25~44歳/成人中期前期:仕事体験を通しての試行と安定の時期)

④  維持段階(45~64歳/成人中期後期:職業上の地位と状況を改善するための

継続的な適応過程)

⑤  衰退段階(65歳~/成人後期:退職後の生活設計、新しい生活への適応)

スーパーによると、それぞれの時期によってキャリア発達の課題は大きく異なり、生涯にわたっての成長から衰退までの5段階と、各ライフステージにおける成長から衰退の5段階を繰り返し、螺旋状にそのサイクルを繰り返すという。これはスーパーのライフスパン・モデルとして職業心理学におけるもっとも代表的なキャリア理論として知られている。しかしながら、人生100年時代に入ってこのモデルでは、キャリア発達をうまく説明できなくなっていると思うのは私だけであろうか。スーパーは65歳以上を衰退期と位置付けているが、70歳までの雇用維持を義務付ける動きや生涯現役ということを標榜する人が増えている時代にあってこの点には違和感を覚えざる得ない。そして何より、成人中期前期と後期の位置づけである。会社に入って20年を一つの区切りとして、新たなキャリアにチャレンジすることが求められる時代になりつつある。そういう意味では、成人中期前期は、確立と新たなチャレンジがテーマになっていいのではないか。そして成人中期後期は、新たなキャリアの開拓と実践による60歳以降を考えた再チャレンジのときと考えるのが今風といえるような気がする。つまり、キャリアステージを入社から20年スパンで3区分で考え、キャリアチェンジをしていく、それが人生100年時代のキャリアサイクルといえるのではないか。

 キャリアの考え方は、60年以上も前に提唱されたものである。高齢化時代になって、定年後を引退と考える人は少なくなってきている。あえていうなら、定年後も働くことを前提に人生設計が必要な時代になってきている。こうした時代にあって、昔ながらのキャリア理論がいまだに重宝がられているのはいかがなものだろうか。AIやロボットなど、人間の能力を補完する技術の進歩はすさまじい。こうした科学的、社会的背景も考慮した21世紀型のキャリア理論が今求められている。それなくしては、真のシニア層の活躍促進は望めないというのは言い過ぎだろうか。要は、人生100年時代を前提としてキャリアステップ、スパンを考える必要があるということである。

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