今、求められている組織におけるマネジャーの役割

「マネジメントは20世紀最大の発明であり、誰でも身につけられる」としたのはP・F・ドラッカーであった。この考えは、それまでのリーダーとしての明白な資質を持った人を教育し、育てるといった古い概念を打ち壊し、リーダーになる方法を教えるといったものへと変化させた。歴史的に見れば、古代世界ではリーダーシップの概念とは、支配者たちが臣民を従わせる支配概念であった。しかし、それが民主主義の高まりとともに、従うものを尊重し、理解、動機付けるような試みとしての社会的影響力へと変化する。そして近代では、共通の目標ヘ向けて、組織に所属する人々の心からの関与を引出し、その対人影響力によって組織目標を達成するといったものへと変質してきている。ここにおいては、リーダーと従うもの(フォロワー)といった関係は大きく変化し新たなリーダー及びフォロワー像が模索されている。同時に、個人の影響力では解決しえない問題が指摘されるようにもなってきた。最新のリーダーシップ論では、リーダーシップをもはや個人のレベルから集団や組織に属する人々の相互の行動に現れるプロセス(互恵関係)として理解しようとしている。すなわち、集団や組織で共有される意味(価値観)をどう形成し、それぞれがその意味を共有した上での役割行動をどうとるかという組織的行動に焦点をあてた展開がなされている。ここにきて、リーダーシップを個人の領域を超え、集団や組織を構成する人々による互恵関係を前提とした、相互作用による共有できる意味形成プロセスとして捉える新しい概念が立ち上がってきているのである。

 日本ではあまり知られていないが、ドラッカーと並ぶ経営学の巨人として欧米で尊敬を集めているヘンリー・ミンツバーグは、組織におけるマネジャーの役割を、様々な組織リーダーの活動観察、インタビューを実践的視点から分析することで以下の3つにまとめている。

1)対人関係に関する役割(組織の顔、組織のリーダー、自組織と外部環境とのつなぎ役)

2)情報に関する役割(情報モニタリングと周知、情報伝達、スポークスマン)

3)意思決定に関する役割(変革者、障害処理者、資源分配者、交渉者)

日本におけるマネジメント理論は、仕事視点と対人視点に重きが置かれており、意思決定や情報といった観点をメインとしてマネジメントを啓蒙する書は多くない。近年、価値観の多様化が進むとともに、組織と個人の関係が大きく変化して組織の効果性が低くなってきている。マネジャーに求められる役割として、対人関係や意思決定における役割の重要性はいうまでもないだろう。ここでは、最新のリーダーシップ論の展開から情報をどう扱うかということに関する役割がとみに重要になってきていることを指摘しておきたい。なかでも、組織で流通する情報をモニターし、必要な人へ広げ、合意形成を促進、組織的意思決定をスムーズに行う下地を作る役割や内外から得た事実に基づく情報を価値に転換して、自分の言葉で組織に吹き込み、組織を変革していくといったことが重要になってきている。また、組織内外に対して組織を代弁するスポークスマンとしての役割に対する期待も大きくなってきている。これは上位者になればなるほど仕事におけるウェイトが高くなってきている。マネジャーのプレゼン、説明能力が重視されてきている背景である。そして、そこには確固たる自らの信念がないと上っ面なコミュニケーションしかできないという烙印をおされるリスクを伴う。

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