同一労働同一賃金をどう考えるか

年明け安倍首相が唐突に明言した同一労働同一賃金導入の検討はいろいろな分野に波紋を投げかけているようである。これは雇用形態にかかわらず同じ仕事に同じ賃金を支払うことを制度化しようとするものであり、働き方改革の一環として5月に公表するニッポン一億総活躍プランに盛り込む方針という。この実現には労働法制の改正を伴い一筋縄にはいかないとされているが、その有り様をめぐって種々の議論が巻き起こっている。この案件で提言を行った東京大学の水町勇一郎教授によると「欧州でも、労働の質、勤続年数、キャリアコースなどの違いは同原則の例外として考慮に入れられている。このように、欧州でも同一労働に対し常に同一の賃金を支払うことが義務づけされているわけでなく、賃金制度の設計・運用において多様な事情が考慮されている」と合理的な格差の余地を指摘した上で、日本でも同一労働同一賃金の導入は可能としている。また法制化にあたっては、労働基準法ではなく、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法によることを提案している。そして、この原則に違反する場合は、合理的な理由に基づいた格差であることを企業は立証する責任を負うことになるという。また、一億総活躍プランでは、正社員転換・待遇改善の方向性も打ち出すとされており、こうした背景を考えると、今回の同一労働同一賃金はまずもっての主たる対象としては、非正規労働者の待遇改善及び正社員化促進を念頭においたものと考えていいだろう。折しも、未曽有の求人難でもある。一方、女性の活躍促進に伴う処遇改善、シニア人材活用の問題もある。

現在、非正規労働者は約2000万人と雇用者に占める割合は37.5%に達しているが、正社員と非正社員の賃金格差は大きく、正社員を100とすると非正社員は業種や企業規模にもよるが60前後というのが相場である。この格差には賞与は含まれていないから年収ベースではさらに大きな格差がついていることになる。このことは、国の社会保障政策にも大きな影を落としている。このままの状態が続くと高齢者プアが急増して国の財源を圧迫するなどのことが目に見えている。政府としてはこうした非正社員をできるだけ社員化するとともに、昨年成立した若年者雇用促進法に基づく施策の推進を強化する腹積もりもあるようである。また、2018年から始動する有期労働者の無期転換ルール(雇用期間が通算で5年を超えた有期契約労働者に対して、希望する場合は無期契約に転換する制度)も正社員転換を促進するきっかけになりそうであるが、有期契労働者の処遇は正社員とは異なるため、単純に無期雇用にすればいいというものでない。そのため、人事制度の見直しなど種々の手続きが必要となる。こうした事情も視野に入れた同一労働同一賃金といえそうである。

対する企業としては、上記のような背景を睨んで自社としてどう対処するか慎重に検討する必要がある。まさに、人事処遇理念、雇用政策の再構築が求められているといえよう。 

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