従業員満足度と従業員エンゲージメント

求人環境に関して相変わらず企業側に厳しい状況が続いている。特に流通、サービス、建設といった業界では、人件費の上昇や人材確保がままならないことが業績にも暗い影を落としているようである。こうした中、改めて従業員満足度を会社の重要指標として見ていこうとする企業が出てきている。元来、従業員満足度は、従業員が会社や仕事にどれくらい満足しているかという観点から従業員の意欲喚起や離職防止などの人事施策を考える指標として発展してきた経緯がある。そこでのキーワードは「ロイヤリティ」であり、会社側、従業員ともに相互に求めるものにどう応えるが重要であった。しかし、若い世代の就業や働くことへの考え方や意識が変わるとともに労働市場の変化やグローバル化への対応が求められる中、企業は多様な価値観や働き方を受容していくことが重要となってきている。こうした背景もあって従来の企業への忠誠度による会社と従業員の間の「ロイヤリティ」マネジメントが限界にきているように思われる。そこで近年注目されているのが従業員エンゲージメントという考え方である。この概念の提唱者であり、この分野の第一人者といわれているボブ・ケラーによれば、従業員エンゲージメントとは「企業と従業員による相互コミットメント」であり、「企業と従業員がパートナーシップを結んで構築し、継続的に繁栄するモデル」であるという。ここでいう相互のコミットメントとは、企業は従業員の能力を最大限引き出すことを約束し、従業員は企業としての業績に貢献することを約束することであるとする。この観点で言えば、従来の従業員満足度が相互に求めるものに応えるという視点であったのに対して、従業員エンゲージメントは、従業員は会社に自らの能力によって価値を提供し、企業は従業員が提供した価値を評価し、それを最大化できるような環境や報酬や機会の提供を行うという「相互に提供する」という関係性が重要ということになる。まさに企業業績向上へ向けた会社と従業員のパートナーシップといえるだろう。

従業員エンゲージメントは、上記の観点から言えば、「従業員それぞれが、会社が達成しようとしている目標やビジョン、戦略に共感・コミットし、そこへ向けて自らの力を自発的に発揮しようとする貢献意欲」ともいえるかもしれない。この分野に関してグローバルに取組みを行っているプロフェッショナルファームによると、こうした従業員エンゲージメントに影響を与える要因として、「リーダーシップ」「ストレス・業務量のバランス」「ゴール・目標の明確さ」「上司との関わり」「企業イメージ・企業ミッション」が重要であるという。ただ、日本においては他国に比べて「リーダーシップ」の影響は大きくないという。日本企業のグローバル化を考えていく上で興味深い指摘である。

企業と従業員の関係性をイコールパートナーととらえ、会社業績向上へ向けて従業員が価値(成果)を最大限に提供できる環境を企業がどれだけ本気で提供できるかということが問われる時代になっているということだろう。

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