意外な事実、その後の現実

深刻な人手不足が言われて久しい。事実、今年3月の有効求人倍率は1.30倍となっており、質だけでなく量的確保もままならない状況となっている。もちろん、地域や業種格差は存在するし、求人の中身を詳細に検討すればすべてにおいて厳しいわけではないことがわかる。しかし、一方で15歳から64歳までの生産労働人口が年率1.5%前後で減っていることも事実である。生産労働人口は7664万人(今年1月時点)であるから毎年およそ100万人が減っている計算である。人口減少社会は始まっているのである。こう書くと悲観的将来しかないようであるが、実際には労働力人口は減っていないのである。逆に、労働力人口はこの3年で105万人増えているのである。不思議に思われるかもしれない。これは、既婚女性(特に20代から30代)と60歳以上の高齢者の労働参加率が上昇していることが寄与しているからと言われている。既婚女性の労働参加率が上昇したのは、景気低迷で配偶者所得が伸び悩み働かざる得ない事情を抱えた人が増えたことに加えて、女性活躍促進の世の流れに背中を押されてか、子育て女性のニーズに合った働き方の多様性を受け入れるなどして女性を積極的に活用しようという企業が増えてきていることも一因といえるだろう。一方、高齢者については、年金の支給開始年令の引き上げが大きく影響しているといわれている。もともと日本の60代は他国に比べて働く意欲の高い人が多いことが指摘されていた。こうした動きは、いろいろな意見はあるが現在安倍政権が進めている取組みとも相乗的効果があってのことのように思われる。

統計資料によれば、既婚女性と高齢者の労働参加率の上昇によって2020年前後までは労働力は安定して供給できるようである。一部深刻な職種もあるが、オリンピックまでは人手不足は何とかなりそうな感じではある。求人倍率に比して賃金上昇率がそれほどでもないのはこうしたことが背景にありそうである。しかし、その後を見ると人口の減少を補ってきた既婚女性、高齢者の労働参加率の上昇も限界に近づくことになり、日本の労働力(労働者数×労働時間)は減少ペースを加速していくことになる。まさに、オリンピック以降の経済を下支えする施策が見えないこととともに悩ましい問題といえるだろう。また、子育て中の既婚女性や高齢者が職場に増えることは、労働時間や雇用形態などの働き方の多様化に否応なく企業は対峙せざる得なくなる。このことは、職場の複雑性を増長し、管理コストやマネジメント負荷の増加を意味する。ひとによってはこれをもうひとつのダイバシティと呼んでいる。

こうしたなか、日本における労働生産性の向上は避けて通れない重要課題といえる。現在AIの活用やロボット化による取組みがマスコミを賑わしているが、技術の進歩やコストの面を考えるとまだまだ普及には時間がかかりそうである。そういう意味で、人の労働生産性をどう向上させるかは、古くて新しい課題といえる。そして、それは働き方の変革と切り離せない取組みでもある。既成概念をどう取り払うか、経営者の発想の転換が必要な時代と言えるだろう。

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