日系企業はグルーバル人材競争に勝てるか

一昨年、お客様のタイ現地法人給与見直しの案件でタイを訪れた。その折に、商工会議所や現地の人材サービス企業、日系企業の人事担当者などに現地の実情をヒアリングさせていただいた。驚いたのは、幹部社員の給与水準であった。日本企業よりも高い給与を払っている企業が見られたのである。タイの最低賃金はこの4月の改訂で308~330バーツ(1日)であるから、日本円にして1000円前後といった水準である。この感覚でいたから驚いたのである。欧米の現地外資系企業の賃金水準が高いのは日本と同じである。しかし、日本より低いであろうと想定していた現地企業の経営幹部にもかなりの賃金が支払われていた。つまり、一般社員との給与格差が著しく大きいのである。日本においても戦前、財閥企業の課長と一般社員の給与格差が20倍程度あったという話を以前きいたことがあったが、まさにそれと同じ状況であった。

昨年、中国のIT企業が日本進出にあたって大卒初任給を40万と提示して話題を呼んだ。新卒だけではない。中途採用においても優秀な技術者には金に糸目をつけずに数千万の単位で引き抜きにかかっていると言われている。日本企業の賃金はバブル崩壊以降の縮小均衡からようやく上昇の機運が生まれつつあるが、その間、中国をはじめとするアジア各国の賃金は大幅に上昇している。そして、グローバル化の中で特に経営幹部層の賃金は、それほど国によっての格差はなくなりつつあるようである。JACルクルートメントの調査では、職位が高くなるにつれて日系企業と現地企業の給与格差はなくなっている傾向が見られる。国によっては逆転しているケースも見られた。JACリクルートメントの幹部によれば、この10年で日系企業の給与が低いというイメージが労働市場に定着してしまったという。

日本企業の賃金制度は、組織階層別に賃金テーブルを設け、大幅な階層格差が生まれないような設計をしている企業が多い。それゆえに、グローバル基準での優秀な人材に対する賃金相場に対応しにくい構造が生まれている。このままでは、グローバル人材競争に日本企業は勝てるのか心配になってくる。賃金制度の考え方を根底から見直す時期にきているのではないだろうか。特に経営幹部や優秀な専門人材に対して。前後、日本は極端な格差を嫌い、社会資本主義と揶揄された政策をとってきた。それはこれまでは、「和」を尊ぶ日本人のメンタリティにマッチしていたように思うが、時代は大きく変わっている。いつまでも経済大国・先進国の看板を掲げられる保証はないのである。世界相場の観点で人材競争を考える時代に入ってきていると考えるのは私だけではあるまい。賃金水準は内的衡平性と外的衡平性の2つの観点から考えることが重要と言われているが、国際社会という観点からの外的衡平性では、日本企業の賃金相場は魅力がなくなってきているのである。しかし、そのためには、日本企業の生産性(収益力)、経営幹部の生み出す付加価値を飛躍的に高める取組みが避けられない。ここにも働き方改革の必然性があるのである。

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