機能的固着と社会的比較が変化を妨げる

我々は、歳を重ねるにつれて、様々なモノやサービスについて「これはこういうものだ」、「こういう使い方をするものだ」といった固定概念を持つ事が多い。心理学ではこれを機能的固着というが、この機能的固着が創造性を阻害することがあることはあまり認識されていない。例えば、今やアマゾンは世界的大企業となり、ネット世界の勝ち組として広く知られている。そのきっかけの一つとなったのが、書店チェーンのボーダーズからオンライン業務のアウトソーシング契約を締結した事だと言われている。このときボーダーズの経営陣は、自社の存在価値を「魅力あふれるショッピング空間で本や音楽、映画を買い求める体験を提供すること」にあるとしていたという。つまり、自社の強みにフォーカスして、新興勢力であるネット販売は、それが得意な人に任せるという判断をしたということである。まさに、本屋としての機能的固着に陥っていたといっていいだろう。その後どうなったかは、周知の事実である。このような例は枚挙にいとまがない。「過去の勝ちの方程式への執着」といった見方もあるが、私は自社の製品やサービスを、機能的固着に陥って時代や顧客ニーズの変化に合わせて変えられなかったことからくる失敗例として捉えたい。

時代はネットと現実社会の融合が驚くべきスピードで進んでいる。こうした中、改めて、世の中にあふれる商品やサービスを定義しなおすことが求められている。一例を上げれば、車である。モビリティという言葉が車の代名詞であった時代が長く続いていたが、電気自動車化とネットへつながりによって自動車は新たな定義(存在意義)付けを余儀なくされている。新たな時代の主役はGMやトヨタではなく、ネット社会の巨人やAIをはじめとしたデータサイエンスを得意とする企業になるのではと言われている。 

こうした機能的固着は、同質の文化や価値観、世代、性といった環境で生まれやすい。そういう意味では、日本社会の国際化や女性の活躍促進、様々な世代が一緒に働く職場環境というのは、機能的固着を打破して、新たな時代を切り開く発想を世の中にもたらすかもしれない。特にまだ手垢のついていない子供の発想は重要かもしれない。

また、社会的比較も「もっと、もっと」の発想を生み出し、現在のリソースの有効活用を妨げるといわれている。これは、他の人よりももっといい環境や状況、もっといいリソースを求めて、現状に悲観し、結果として手元にあるリソースの価値を見落としがちになるという意味である。逆に言えば、今現在の制約事項が、限りあるリソースに新たな発想を呼び込むということである。少子高齢化へ向けてまっしぐらの日本である。ないものねだりしても仕方がない。今あるリソースを新たな観点で見直し、価値創出していく。こうした人材育成がこれから益々重要となってくるに違いない。こうしたことを考えると、外国人、女性、シニア層を改めてリソースとして見直し、日本における外国人の起業を支援する仕組みや女性やシニア層の強みにフォーカスした労働施策などそれぞれが持つ制約事項を逆手に取った新たな取組みがもっとあっていい。

本コラムを含むメールマガジンを隔月で発行しております。
ご希望の方は hp_info@hpt-lab.com 宛てに、氏名、勤務先を明記の上、件名「メルマガ希望」とし、メールを送ってください。
尚、場合によりお断りさせていただく場合もございます。予めご了承下さい。