法的側面からみたこれからの管理者像

今年6月29日に働き方改革推進法が様々な法案をひとまとめにして成立し、7月6日に公布された。マスコミなどの報道では長時間労働の是正を柱とした労基法改正における時間外労働の上限規制に話題が集中して、もう一つの柱である産業保健機能の強化を目的とした労働安全衛生法の改正についてはあまり話題になっていない。しかし、企業人事の立場からすれば、こちらへの対応の方が影響が大きいのではと言われている。具体的には、産業医による面接指導や健康相談等が確実に実施されるようにすることで労働者の健康管理を強化するということになっている。そしてそのために従業員の健康管理に必要な情報を企業が提供することが求められることになる。特に管理者やみなし労働者を含む全従業員の労働時間の管理が必要になることが波紋を呼んでいる。これまで企業における労基法上の管理監督者は時間外労働手当(深夜除く)の対象外となっており、労働時間管理をしっかり行っているところは少なかった。それを、タイムカードやパソコン使用時間等の客観的な方法で行う必要が出てきたのである。昨今の職場の働き方改革における長時間労働の是正は、誤解を恐れずに言えばある面残業管理の対象となっていない管理監督者の犠牲の上に行われてきた面はいなめないが、これからは、その管理監督者も労働時間管理の対象となるのである。そして、月80時間を超える時間外・休日労働を行っている人に対しては通知を行い是正をもとめていかなければならなくなる。また、有休についても付与基準日段階で5日を指定して休むことが求められる。つまり、これまで労働時間にとらわれない働き方をして(あえてこう表現させていただく)職場の業績を牽引してきた人たちにも働き方の見直しが本格的に求められるのである。

 今回の法改正は労働行政の軸が、これまでの柱であったサービス残業撲滅に代表される適正な労働対価の支払いから長時間労働の是正というまさに働き方に軸足が移った象徴的なものであると思われる。ゆえに、企業は今回の法改正の主旨を正しく理解して取組みを行う必要があるのではないか。特に、管理監督者に関しては、その意識改革とともに働き方、業務の在り方だけでなく、目指すマネジメント像も見直す必要があるのでないかと思われる。つまり、少なくはなってきたとはいえ根強く理想像となっている長時間労働も厭わず、有休もとらず我武者羅に率先垂範で働くことを美徳とする滅私奉公型の管理者から、一人の人間としてワークバランスを考え、限られた時間の中で、多様な人々をまとめながら最大の成果を生み出すことを共通価値として、そのための創意工夫を組織的に行う変革者としての組織リーダーへの転換である。そのためには、職場において理想とする働き方と職場環境の在り方を徹底して議論、突き詰めていくことが不可欠であろう。特に、こうした管理監督者の方々の表に現れない長時間労働によって支えられてきた企業業績にどうこれから取組んでいくのか、経営的立場に立てば頭の痛い問題と言えよう。無理をするなと無理を言ってきた管理監督者に対してこれからどう対峙していくのか、経営の哲学が問われることになりそうである。

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