社員のキャリアデザインにおける企業の役割

先日、弊社のお客様で50代半ばの方々へむけてキャリアデザイン研修を行った。驚いたのは、自らの定年後の年金や退職金に対する知識がほとんどないことであった。この研修は、定年を数年先に控え、定年までの取組みと定年後をどうするかを世の中の動きやこれまでの自らのキャリアを振り返り考えることで考えるというものであったが、当然定年後の経済生活もテーマとなる。そこで、その点について受講者の方々にお聞きしたわけである。日々、仕事や生活に追われて、定年後のことはほとんど考えたことがないという人ばかりであった。この点については、少し古い調査ではあるが、労働政策研究・研修機構の60歳以降の継続雇用と職業生活に関する調査2007がある。それによると、定年段階で年金の受給見込み額を知っている人は27.6%であった。10年以上たってもあまり変わらないようである。現在、老後資金が2000万不足するという金融庁の試算が発表され、にわかに注目が集まっているが、それでもこの有様である。老後の経済生活については、定年直前になってからでは遅いことが多い。若いうちから意識して自らの資産形成に関心を持ってもらう必要がある。こういう観点に立つと、若いうち、特に30代、40代のキャリアデザイン教育は重要である。自らのキャリア形成をどう考えるかだけでなく、人生100年時代を踏まえた人生設計の観点が必要になってきている。自社の退職金制度をはじめとした資産形成支援制度や年金制度の理解など、日ごろあまり考えることがない事柄をこうした研修の場で意識して考えていただくのは、これからの時代企業の役割としても重要となるのではないか、そう考えるのである。

 日本人は、お金の話をするのを良しとしないことが多い。最近になってようやく小学校などで金融教育を行うところが出てきているがまだまだ少数派といえよう。人生100年時代、国の年金制度があてにならない状況になりつつあるこうした中、個々人が自律して計画的に資産形成を考えていくのは当然の流れといえよう。大手企業中心に、企業福祉的制度を充実させて、定年まで勤めあげその後の、年金生活で老後は安泰という時代はとっくに終わっているのである。企業の人事施策に於いて、こうした観点も加味した政策を考える必要がある時代ともいえるかもしれない。まずは社員の自律支援であろう。自らの人生に自ら責任を持ち、「ライフシフト」の著者リンダ・グラットンではないが、自らの人生に必要な無形、有形資産を築くよう啓蒙していくことは、重要な企業の使命となるのではないか。ともすると仕事をしていく能力や経験といった生産性資産だけが注目されているが、それ以外の健康、人生に活力をもたらす家族や友人などとの良好な関係を意味する活力資産、転身を可能にする変身資産といったこと、そして金融資産、こうした資産形成が適切、自律的に行えて初めて、将来を見据えた前向きな取組みや活動ができる。そしてそれが企業への貢献となって結実する。そう考えてはどうだろう。

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