組織の学習能力を高めるもの

組織の学習能力については、近年、経営学の分野で高い関心を集めている。組織の学習は、個人、チーム、組織全体という3つの観点で行われるとされている。そしてそのスピードは、産業分野によって差があることが報告されている。学習は経験によってなされ、その学習によって組織の生産性や効率性などが高まるわけであるが、こうした学習を促進するにはどういった取組みが必要であろうか?こうした問いに対する答えとして、組織学習の1つの側面である記憶力(経験によって学習した情報の蓄積)という観点から、「トランザクティブ・メモリー」という考え方が注目を集めている。これは、組織の記憶力に重要なことは、組織全体が何を覚えているかではなく、組織のメンバー個々が他のメンバーについて「誰が何を知っているか」を知っておくことであるというものである。英語でいうなら「What」ではなく「Who knows  What」が大事ということである。以前、ノウハウも重要だが、ノウフーが組織においては重要であるということを指摘した学者がいたが、これは、個々の企業に特殊な能力であり、この人的ネットワークの要にいる人が組織において大きな利益を得ているという研究もある。それをさらに発展させた考え方といっていいかもしれない。

 さて、現代企業は膨大な情報の中で、スピード優先で仕事をしていかなくてはならなくなっている。こうした状況ではあるが、一人の人が管理できる情報量には限りがある。100人の組織であれば、100人それぞれが同じ情報を共有していては効率化はおぼつかない。人は自然にそれぞれの担当分野や専門分野に特化して知識を蓄えていく。人が組織として学習することのメリットはこうした各専門家がそれぞれの分野で深い知識を蓄え、それを組織的に効果的に活用できるところにある。そのためには、「Who knows  What」が重要というわけである。こうした観点から、自他ともに認める「Who knows  What」ネットワークを組織的に活用することの重要性が指摘されている。しかしながらこうしたネットワークが組織的に根付くためには、その組織の風土やあり様が大きく影響することがわかってきている。つまり、「Who knows  What」を知っていても、聞きにくい、開放性の低い、権威主義的な風土であったり、その人へのアクセスの手段や機会が限られていたりしてはそれは効果を生みにくいのである。こうした観点から、組織内の人が自然に知り合い、交流を深める機会をどう増やすかが重要となる。こうしたことが自然にできる企業風土づくりがこれからは競争力の源泉となるかもしれない。同時にそれを促進する手段としてソーシャルネットワークの活用が始まっていることは耳に新しい。ICT(情報通信技術)の発達が、企業能力に大きな影響を与え始めたといっていだろう。

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