組織の持つ本質と課題

経営学の巨人ドラッカーは、その著書「マネジメント-課題、責任、実践」の中で「完璧な組織構造などありえない。せいぜいできることは、問題の少ない組織をつくることである」と喝破している。つまりは、企業経営の要諦が環境適応であるならば、環境の変化に伴って噴き出てくる問題を最小限にする組織作りをしていくしかないということであろう。ドイツの心理学者マクシミリアン・リンゲルマンは、集団で一つの作業をする場合、人数が増えるにつれて、一人当たりの努力量(貢献度)が減っていく「社会的手抜き」の概念をリンゲルマン効果として提唱している。この観点からすれば、組織は大きくなるにつれて、組織効率が悪化する宿命を持っているといえる。であるがゆえに、組織を健全に保つ絶えざる取組みが必要なのである。ドラッカーは、組織の欠陥症状について、以下の6つを上げている。階層の増加による情報伝達の劣化と人材育成の長期化の問題、組織そのものの存在が問題を生み出すという問題、形式に拘泥した所管と手続きの複雑化・硬直化の問題、会議の増加による責任の所在の不明化と非効率性、機械的な仕事の細分化からくる調整事項の増加、そして年中の組織改革である。特に最後の組織改革については、様々な企業でトップが変わるたびに組織改造の記事が新聞紙上をにぎわしていることから、実感をお持ちの方も多いのではないか?組織を変えることで問題が解決するという誤解が蔓延しているように思うのは私だけだろうか。経営史家として名高いアルフレッド・チャンドラーは、企業によって成長の仕方は異なり、それぞれの成長の仕方に応じて組織構造が設計されるべきであることを明らかにし,その著書『経営戦略と組織』(1962)において「組織は戦略に従う」という命題を提唱した。「組織の前にまずは戦略をしっかり検討しなさい」ということであろう。

 現在、多くの企業は縦割り組織になっている。そして部門をこえた協力体制がとれないことが問題点として指摘されている。個々の部署の業務品質は高いのだが、全体最適という視点からの商品力、販売力、組織力という点ではどうかということだろう。現在苦戦している業界は、その傾向が強いのではないか。ひとくくりにされた組織(専門化、部門化)は自己目的(その組織を存続、拡大するための利害と意図)を持つようになると言われている。アメリカでもこの傾向は指摘されていて、サイロ(穀物貯蔵設備)化と呼ばれているようである。どこの国でも存在する問題といえる。従業員が300名を超えるあたりからこの傾向が顕著になるとされている。この自己目的化が縦割り組織の弊害の本質といっていいのであるが、これを打破するためには、社員ローテーションの活性化が重要といわれている。組織をいじる前に、組織に帰属している人を戦略的、計画的に動かせということだろう。

 最後に、これらからの組織に重要な要件として、自己組織化ということがある。これは、個々のチームやグループがより高い目標を目指して、自主的に創造的な仕事を行うという考え方であるが、これを実現するためには、経営理念や組織として継承していくべき文化の浸透が大事で、経営層がそれを基盤として、社員と信頼と企業ビジョンへの共感を育み、既得権や慣習にとらわれず、新しい取組みを行う社員を支援することが重要とされている。

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