組織を考える2つの観点

先日、テレビでローソン社の新浪社長他と有名な学者との対談番組があった。そこで新浪社長が、東日本大震災のときにどういう陣頭指揮をとったのかという質問に対して、現場に全て任せ、本部はそれを支援することに徹したという話をしていた。また、ヤマト運輸においても、震災時に現場が社内ルールに違反して顧客対応したことを社長が許容したという話がマスコミで紹介されていた。未曾有の災害時の美談として紹介されていたが、これらの話はこれからの組織を考える上で重要な示唆に富んでいる。ここに貫かれているのは、「現場の判断が正しい」という哲学である。そして、それを阻害するメカニズムが組織に潜んでいるということである。組織において個々の現場の状況を一番理解し的確な対応が可能なのは、現場に一番近い人々である。しかし、組織で動く場合に経営層が一番恐れるのは、勝手に現場が動いて収拾がつかなくなったり、想定外の結果を招いたり、収益や会社の評判、組織運営やシステムに大きな影響が出ることであろう。ここには現場への信頼はない。そこで重要になるのが経営理念や行動指針である。ウェイ(WAY)という言葉を使って表現している企業もある。ローソン社には、「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」という企業理念と、「そこにみんなを思いやる気持ちはありますか」「そこに、今までにない発想や行動へのチャレンジはありますか」「そこに、何としても目標を達成するこだわりはありますか」という3つの行動指針があるという。このような理念や行動指針が共有されていたからこそ、震災時、現場に全て任すという対応が可能になったのであろう。こうした考えを現場がしっかり受け止め、行動に移せるのはこうした非常時には大変な強みとなる。今、世の中は大きな変わり目といっていい。ある意味では非常時の連続である。そういう意味で震災時の様々なケースは参考になる。

 一方、ある記事で米軍のネットワークを中心とした新しい戦い方を紹介していた。ここで重要なのは、現場主体の分散協調体制であるという。この記事はネットワーク型社会における組織運営の在り方をテーマとしていた。その意味するところは、現代社会はすべからくネットワークで結ばれ、関連しあっている。最も状況を理解している現場と関連する人たちとの間で分散型の協調体制を構築することが求められており、それを統合していくことがこれからの組織運営にとって重要であるということであった。

 こうした2つの観点から、これからの組織を考える上で重要な2つのキーワードが浮かび上がってくる。1つは、「理念や行動指針を共有した現場の主体性」であり、ひとつは「現場の主体性を支援する分散型組織運営」である。そのためには、急がば回れで現場の一人ひとり、特に現場のリーダー育成に投資していかなければならない。現場の判断力、実行力こそ経営基盤といえるだろう。

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