組織行動は何故変われないのか

経営環境が変わって、わかっていながらその対応がうまくいかずに世の中から消えていった企業は多い。わかっていてもなかなか実行できないのが世の常のようである。最近、日経新聞社から「なぜ、わかっていても実行できないのか」という本が復刊された。これは、組織行動論で有名なジェフリー・フェファーとロバート・I・サットンの共著で出されたものである。過去に2回違う書名で出版されたものを今回、改題、修正して発刊されたもののようである。仕事柄、組織変革に関してのご相談は多い。現状をつぶさに調べてみると気付くのであるが、わかっていても実行できないというのが症状の場合が多い。その結果、次々と新しい取組みを実施して、現場はそれに振り回され徒労感とともに経営への不信を募らせるといった構図になっていることが多い。なぜ、組織はわかっていても行動に移せないのか。この本では、5つの原因となる事柄をあげている。私なりの解釈でまとめてみると以下のようになる。

  1. 問題を話し合ったり、検討、決定しただけでやった気になって、実行力よりも見栄えのいい提案や発言がもてはやされる

  2. 過去の成功や伝統にとらわれ、前例踏襲主義で思考停止状態になっている

  3. 異質排除、必罰主義処遇等による恐怖心をあおった経営手法によって現場が委縮して動けない

  4. やるべきことをちゃんと評価せず、重要でないことばかり評価している。やるべきことと評価視点のズレから生じる矛盾(正直者が馬鹿をみる)

  5. 内部競争論理で組織が染まって個々の協働や情報共有、チームワークなどがうまくいかない

 なかなか、的を得た内容だと思う。組織変革の課題を抱えている企業は多かれ少なかれこうした風土を内在させているのではないか。変化の激しい市場環境に対して、顧客を知る現場の意見を素早く吸い上げて、商品やサービスに反映させていくことが求められる現状では、まず行動、走りながら軌道修正していくというスピード感ある文化が重要になってきている。それも組織的に。

前述の5つの観点は、組織としての認識を行動化することにマイナスの影響を与えるとこの本の著者は強調している。なかでも、私が気になったのは、④、⑤の点である。成果主義の台頭とともに競争原理が企業に深く浸透して、その結果、競争が全てを解決するがごとく発言をする人が多い。実際には、新しい知識や情報を共有し、協働が必要な場合には、競争はそれを阻害し、組織効率を悪化させることが多いのである。部分最適が横行し全体最適を求めた組織行動がなかなか難しいという企業が多いがこのあたりに原因があるのではないか。また、人の育成場面では、競争はそれを阻害する面を持つことも指摘されている。こうしたことは、評価処遇制度とも深く結びついているだけに一朝一夕に解決するのは困難となっている。

 

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