組織風土に影響する5つの合理

組織風土を考えるときに、よく議論されることのひとつにその組織の人々がどういう判断基準のもとにコミュニケーション行動しているかということがある。そこには判断基準となる5つの合理があるとされている。ひとつは、目的合理である。これは企業の存在意義(何のために企業として存在しているのか)を主として経済的結果の観点からとらえ、それに即して物事の判断をすることを優先するというものである。日本は資本主義社会であるからほとんどの企業がこういった考えを当たり前としているのではないか。次にシステム合理である。これは、組織を運営していく上で基幹となるシステムや制度に基づいて、もしくはそれに合わせての物事の判断を優先するという考え方である。法の遵守をミッションとしている警察組織、官僚組織や業法やシステム・制度に縛られた業界、官僚化した大企業組織がこれにあたる。次に、環境―状況合理である。環境、状況に合わせてその場で最適な判断をしていくということであるが、企業は環境適応業という考えもある通り、この合理も多く取り入れられている。4つ目は、価値合理である。企業が価値をおいていることに基づいて日々の判断を行うというものである。理念経営などを標榜する企業はこうした合理に基づいて運営されていることが多い。最後に、モチベーション合理である。これは、人のモチベーションを最優先に考え、人が活き活きとやる気になって取組めるかを物事の判断の根拠とするというものである。人を活かすという観点からは理想的ではあるが、現実との狭間でなかなか難しい。企業組織においては、こうした5つの観点が複雑に入り混じってコミュニケーションされ、その企業独特の風土を形成していることが多い。こうした中、個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係を示すエンゲージメントという観点から改めて企業におけるモチベーション施策の重要性が言われだしている。米ギャラップはこのエンゲージメントを仕事への熱意という観点から調査しており、日本は調査対象139か国中132位であったというショッキングな結果を報告している。つまり、日本の従業員は他国に比べてやる気がないと言っているのである。資本力や技術力ならまだしも、資源のない日本においては唯一の資源と言ってもいい人のモチベーションが他国より低いのでは話にならない。ギャラップのジム・クリフトンCEOはその原因を、自らの成長を重視する世代と旧世代のギャップにあるという。つまり、上のいうことを忠実にこなす社員がもてはやされた時代から、上司と部下が一緒になってどうやったら結果が生み出せるかを一緒に考え、部下を成長させることが重要な時代になってきていることに上司が気付いていないというのである。まさにマインドセットの変革が必要になってきているのである。こうした点からも組織におけるモチベーション合理という観点が見直されているのである。日常の職場のコミュニケーションがどのように行われているかをチェックすることをお奨めしたい。そこでは多分、目的合理やシステム合理、環境―状況合理などが幅を利かせ、モチベーション合理の観点はあまり留意されていない職場が多いのではないか。職場におけるモチベーション合理に基づいたコミュニケーションの量を増やす必要があると申し上げたいのである。そして、そこには一貫性が必要であることも付け加えておきたい。ご都合主義ではいけないのである。人を活かすために何ができるかを日本企業は本気で考えなくてはならないときにきている。

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