職務拡大と人材育成

最近、人事制度再構築のお仕事をさせていただいて感じることの一つに、職場の人材育成の面で、若手の職務拡大のシナリオ(育成プロセス)がない企業が増えていることがある。通常、新卒で入社した場合、仕事を覚えていくプロセスには、各社の人材育成戦略(どのような業務をどういう手順で経験させてステップアップしてもらうか)があるのであるが、それがなく場当たり的に仕事を与えて都合よく使っているケースが散見されるのである。業務そのものの体系的整理やその業務手順が属人的になって、組織的に共有されていないことが原因のようである。どうも背景を探っていくと、マネジャー層のプレイヤー化によって業務マネジメントと人材指導育成に割く余裕がなくなっていることがあるように思える。よくあるケースとしては組織業績責任を果たすために仕事のできる部下に仕事を集中させ、新卒入社の人材に対しては場当たり的な業務の割当になってしまって、その結果、将来が見えなくなりやる気をなくし最悪の場合、退職するということになっているようである。

 組織においては通常、担う役割や業務が等級制度によって規定されている。各職場では、それに基づいて担う仕事を計画的に割り当てて、経験を積ませる必要がある。そして、それによって計画的OJTとキャリア形成が促進されるのである。ここがうまく機能していないと、働く側からすると自分の職場における将来像が描けなくなり、不満が高まることになる。有望な人材程この傾向は強い。そして、評価の面でも、それが目標管理業務の土台となり、等級制度との整合性ある評価が可能になるのである。いくらいい評価制度をつくっても、ここの土台がしっかりしていないと納得ある目標設定や評価は難しくなる。

 また、組織においては階層別に役割が規定されているケースが多い。主任には主任に期待される業務,役割があり、課長には課長に期待される業務、役割がある。こうした組織的役割を昇進昇格によってうまく役割転換を促していくことも重要な人材育成テーマと言える。この点についても課題を抱えている企業が多い。課長といっても名ばかり課長であったり、部長と言いながら課長レベルの業務に留まっている人は多いように思える。こうした職場におけるキャリア形成の支援機能が崩壊している状況に危惧を思えているのは私だけではあるまい。以前は、こうした階層別役割教育に力を注いでいた企業もいつしかそこにあまり力を入れなくなってきているようである。そのつけが現場の人材育成機能を弱体化させていることにもっと危機感を持って取り組むべきではないかと考えるのである。もちろん、組織の有り様や組織階層のフラット化などによって従来と担う役割が変わってきていることもあるだろう。であれば、改めて、それを明確にして再教育すべきではないのか。

 未曽有の求人難の時代、折角採用した人材をどう戦力していくか、そしていかにやめさせないかが職場の重要課題になっている。一度考えていただきたいテーマである。

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