職場が人をダメにする時代

バブル崩壊後の社会変動に企業が適応しようとした結果として、職場が変質し、人材育成が阻害される状況が生まれている。それは3つの観点に集約できる。1つは、職場における人の関係である。要するに昔は各職場にそれぞれ新人や若手の面倒をみる役割の人が公式、非公式に存在したのであるが、近年の組織のスリム化やフラット化によって職場の支え合いや人と人の関係性が弱くなり、面倒見る人がいなくなったということである。成果主義人事がそれに拍車をかけている傾向も指摘されている。こうした点は、組織のシチズンシップ(組織市民活動)もしくは相互援助活動として組織を維持していくために重要なものとして認識されているが、近年の組織ではこうした機能が極めて弱くなっている。そのため、新人や若手への関与が減り、個人任せの風土が形成されている。こうした職場に新人が配属されるとどうなるか想像してもらいたい。大卒3年後の離職率が28.8%(厚労省調査2012年)という高い数字になっているのはこうしたことも原因のひとつになっているのではないだろうか。次に成果主義の弊害である。バブル崩壊後成果主義に基づく処遇制度を導入する企業が大幅に増え、9割前後(社会経済生産性本部調査2006年)という報告がなされている。もちろんいい点も多くあるのであるが、運用がうまくいっている企業が少ないこととともに、個人業績を重視した評価をする傾向にあることから、職場に個人主義的風潮がはびこり、「自分だけが・・・」、「自分の仕事ではないことはしない」、「職場のメンバーを支援したり、情報やノウハウ共有しようとしない」といったことが指摘されている。また、職場としての業績責任に重きをおくあまり、できる人に仕事が集中し、人の成長に必要な仕事経験の機会が平等に割り当てられず、新人や若手が経験を積めずいつまでたってもお荷物のままといった状況が生まれやすくなっていることも問題である。職場のOJTは計画的意図を持った業務経験の付与による業務拡大が重要であるがこうしたことができる職場の余裕がなくなっているのである。最後に、職場のIT化と内部統制や情報管理の厳格化・高度化である。今回はIT化がもらたす弊害を考えてみたい。今や職場はITインフラなしに機能しなくなっているのは周知のことであるが、このIT化によって、情報共有が容易になったがゆえに起こっている「考える力の低下」が指摘されている。例をあげれば、大学の試験であまりにサイト上の情報をコピペした回答が多くコピペかどうかを判別するソフトが開発されたというニュースがマスコミを賑わしたことがあった。同じようにナレッジマネジメントという観点からの情報共有は、業務の効率化やスピードを格段に進歩させたが、替わりに「考え、悩み、見出す」という作業や「自分で経験し、学ぶ」ということを奪っている面があることは気をつけなければならない。また、システムに入力することでの人を介さないコミュニケーションスタイルが日常化している傾向も気になるところである。

こうした職場の状況は、人を育てるという観点からすると阻害要因となる。まさに、職場が人をダメにする時代になったといえるのである。こうした職場状況で企業戦略が推進されていくことを危惧する人は少なくないのではないか。

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