職場で一緒に仕事する意味

日本企業の職場の人間関係が希薄化してきていることは近年様々な調査データや研究結果が報告されている。例えば、少し古いデータであるがOECDのBetter Life Index(2012)によれば、日本で働く人の15%近くが「同僚たちと一緒に過ごす時間をほとんど持たない」もしくは「まったくもたない」とされており、OECD加盟34ヶ国の中で最も同僚との関係を持たない国であるという報告がなされている。また、NHK放送文化研究所による日本人の意識調査2013では、「職場の同僚とはどんなつきあいをするのが望ましいと思いますか」という質問に対しての過去5年ごとの推移では、「全面的な付きあい望む」人は年々減少しているのに対して、「部分的な付きあいを望む」「形式的な付きあいを望む」人は逆に増えているという。こうした現象に対して、メールやSNSなどのICT活用が広がりコミュニケーションの在り方が変容してきている点や雇用の多様化によって様々な背景を持った人が職場に増えている点、さらにテレワークの推進等によって働き方が多様化している点、世代による価値観やライフスタイルの違いや変化、等を指摘する識者は多い。こうした背景の中で起きている職場の人間関係の希薄化はどんな影響を職場に与えているのであろうか。

 松田幸弘編著「経営・ビジネス心理学」ではレオン・フェスティンガー、カッツとフレンチの考えを紹介している。集団で仕事をすることの重要性についてレオン・フェスティンガーは次のような指摘をしている。人はだれも自分の意見や能力を確認したいという社会的欲求を持っている。そしてそのことから自分の意見がどのようなもので、自分にはどんな能力があるのかを判断する基準として他者からの意見や考え方を手掛かりとする。そのため、個人で仕事に取組むよりは他の人々と一緒に協力して仕事することで、相互に刺激を受け合い、相互の意見、能力、行動に様々な変化をもたらす。つまり、他の人と一緒に仕事することで相互に啓発され、仕事の質が向上し、成長するといっているわけである。また、カッツとフレンチは集団で何かに取組むことによって集団には一体感が生まれ、秩序を維持するメカニズムが生まれるといっている。そしてこうして培われる組織のまとまりは、組織としての魅力や一体性を形成し、チームワークとなって結実していくのである。こうしたことを考えると、職場の人間関係が希薄化していることは、人の成長や仕事の成果に大きな影響を与えていることは想像に難くない。また、未曽有の求人難の時代である。社員の定着、特に若手の離職防止策への手立てが人事の重要テーマになってきている。こうした人の定着にも職場の人間関係は大きな影響を与えている。働き方改革の名のもとに、様々な取組みがなされているが、人間本来の心理的メカニズムを理解し本末転倒にならないように十分留意する必要があろう。

 働き方改革だけではなく、デジタル革命、AI活用やロボット化、等、職場に新たなうねりが押し寄せている。こうした中、職場を支えるのはやはり「人」なのである。こうした状況から発生する問題を紐解く手がかりとして「働く人の心理メカニズム」に着目する経営組織心理学は有効と考える。

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