職場の協働崩壊の危機

私どもで提供している従業員満足度サーベイ約5000名分(2005年以降実施)のデータを分析していて気になることがあった。それは①評価処遇、給与が不満、②経営層が信頼されていない、③過度に残業が多く休日がとりにくい、④職場間連携がうまくいっていない、⑤仕事の手順やルールが整理されておらず進め方がわかりにくい、という組織の現状分析結果である。①の評価処遇、給与への不満は、バブル崩壊後成果主義が台頭し評価制度が見直されたがそれがうまく機能していないことやリーマンショック後の企業業績の悪化などで評価が処遇に結び付いていないことからかねてより指摘されていたことである。②についても不確実性の高い経営環境が続く中で経営層が明確なビジョンや方針を示しにくいことなどから問題になっていた。過度な残業や休日の取りにくさについてもしかりである。今回、特に気になったのは、④職場間連携がうまくいっていない、⑤仕事の手順やルールが整理されておらず仕事が進めにくい、という2点である。これまで日本企業の強味は、チーム力であり、現場力とされてきた。それが、現在低下してきているのではというのが私の懸念であった。事実、近年の組織経営に関する論文には、職場でのコミュニケーション不足や社員同士が無関心で協力しないこと、社員のやる気低下を指摘するものが増えているようである。さらに、最近話題となった従業員のネット投稿事件に代表される反社会的行動も気になるところである。これらは、職場の関係性の変化からその背景や原因を検討する必要がある。

前述の論文では、仕事の専門化、分業化、成果主義的人事制度、IT化によって、職場に様々な「壁」が生まれ、職場の親和性(人と人との間で起こる情緒的な交流やその交流から生まれてくる親しみや相互理解)が低くなっていることをその原因としていた。職場の親和性が低下すると、率直で正直な話ができず、表面的なやりとりに終始し、背景にある様々な情報が相互理解されず誤解と不信を生んでいくとされている。人は、対面コミュニケーションによって話の全体像や多重多層の意味合いを理解していくが、それができにくくなったことで自分の仕事を取り巻く状況の全体像を把握しにくくなったと考えられているのである。そう考えると職場の協働がうまくいかなくなったことも理解しやすい。

 職場の協働には、①人対人、②グループ内、③グループ間、④組織内、⑤組織間といった5つの協働が考えられる。今回の調査結果では、これらのうち③から⑤がうまくいっていないということが伺われる結果であった。その結果として仕事が進めにくくなっている面があるのではないかということである。職場の協働には、相互の依存性の高さが大きく影響すると言われている。ここでいう依存性とはお互いに影響しあう程度をいう。この依存性には、同じ船に乗っているという「運命」の相互依存性とお互いの職務課題や目標に関する相互の関連性という「課題」の相互依存性があるとされている。この依存性は、競争的状況よりも協働的状況の方がいい結果(高い生産性や協力行動の増加、相互受容など)を生みやすいという研究結果がある。つまり成果主義人事施策がもたらす競争原理は職場の協働には有効とは言えないのである。社員相互の運命共同体的風土と職務課題の相互依存性を高め、協働的状況を職場に創り出すことが今、改めて必要となっているのではないか。最近気になっていることである。

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