集団凝集性と組織市民行動

今年の流行語年間大賞にラグビー・ワールドカップで日本代表を率いたジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチが掲げた「ONE TEAM」が選ばれた。7ヵ国15人の海外選手を含む31人が心をひとつにして快進撃を果たしたその活躍ぶりに日本中が熱狂、感動したのは記憶に新しい。この快進撃を生み出した「ONE TEAM」創りの取組みを日本企業も学ぶべきであるという意見が様々なところで聞かれた。まさにグローバル時代のダイバーシティ経営をラグビーというスポーツを通して体現した事例といえよう。人々の集団が集団らしくなり集団としてのまとまりが良くなることを示す概念として集団凝集性がある。フォーサイス(2006)はその特質を、魅力、一体性、チームワークの3つにまとめている。魅力とは、自分にとってその集団がどれだけ魅力的か、所属しているメンバーがどれだけ魅力的かといったことをいう。一体性とは、集団の持つ価値観が自分の価値観と似ているか、メンバー同士の価値観が似ていることからくる集団に対する安定感、拠り所感を指す。また、チームワークとは、集団の目標を達成するための意欲や態度、集団の目標に向かってメンバー同士が活発な交流をする様をいう。まさに、日本ラグビーチームはこの3要素が揃った組織としてのあるべき姿といえるかもしれない。

こうした集団凝集性を維持していくためには、困っている他者に手を貸す援助行動が重要になる。これは、向社会的行動(外的な報酬を期待することなしに、他者に利益をもたらすためになされる自発的活動)と呼ばれるもので、近年の社会心理学の研究テーマとして注目されているという(大森2018)。職場においても事前に予測できなかった仕事や問題が発生したり、誰の役割にも属さない仕事が発生したりすることがある。このような場合に所属するメンバーが進んで行動や対処しなければ職場はうまくいかない。このような組織における向社会的行動の代表的なものとして組織市民活動がある。略称としてシチズンシップと呼ばれることが多いようである。代表的な研究としてコールマンとボーマンの研究がある。彼らは、その次元を「対人シチズンシップ」「組織シチズンシップ」「仕事に対する勤勉な行動」の3つに分類している。対人シチズンシップとは、協力的な態度、取組みによって他人を支援する行動を指す。組織シチズンシップとは、組織への忠誠や規則やルール遵守を通して組織責任を果たす行動をいう。最後の仕事に対する勤勉な行動は、組織に於いて自らの役割を超えて行動することをいう。成果重視の目標管理が浸透している現在、こうしたシチズンシップの醸成が組織においては重要になってきているのではないか。事実、シチズンシップの高い社員は上司から高い評価を得やすいという報告もある。対人、組織に対するシチズンシップと仕事への勤勉さが周囲にいい影響を与えているのであろう。元来、日本人はこうしたシチズンシップの素養を身に着けてきたように思う。成果主義、職務重視の報酬制度が広がりを見せている昨今であるが、改めて、「ONE TEAM」から学ぶべきところが多いのではないだろうか。

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