2つのダイバーシティ

安倍政権下で女性の活躍促進が叫ばれて久しい。こうした動きの一環として、今年4月から女性の職業生活における活躍の推進に関する法律が10年間の時限立法で施工される。この法律は従業員301人以上の企業に対して以下の義務(300人以下は努力義務)を強いることになる。

  1. 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析(必須項目として①女性採用

比率②勤続年数男女差③労働時間の状況④女性管理職比率)

  1. 状況把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定・届出・公表

  2. 女性の活躍に関する情報公表

    最近のこうした動きを見るにつけ気になることがある。それは、女性の活躍しやすい環境づくりとともに、その活躍の場を広げ女性労働者、女性管理者の数を増やしていくという人口統計学的アプローチに世の中の意識や関心が向いているということである。実は、こうした観点での職場の多様性(ダイバーシティ)へのアプローチは、必ずしも組織にいい影響を与えないという研究結果があるのである。一般的にダイバーシティには2つの種類があるといわれている。それは、タスク型の人材多様性とデモグラフィ型の人材多様性である。タスク型の人材多様性とは、職場に必要な「能力や経験」の多様性をいい、その組織のメンバーがいかに多様な教育や経験、職歴、能力のバックグラウンドを持っているかをいう。これに対してデモグラフィ型の人材多様性は、性別や国籍、年齢など目に見える個々の社員属性の多様性をいう。早稲田大学ビジネススクールの入山准教授がその近著「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」でこの分野の最新研究結果を紹介している。それによると、タスク型の人材多様性は組織業績にプラスの効果をもたらすが、デモグラフィ型の人材多様性は組織業績に影響をもたらさないばかりかマイナスの効果をもたらすこともあるという。つまり、単に盲目的に女性社員や女性管理職を増やすだけでは企業業績は向上しないというのである。もちろん、男性中心で動いてきた日本の企業経営に男性にはない女性の知見や能力を活かすことが重要な時代であることを否定するものではない。大事なことは、自社の仕事をしていく上で必要な経験や職歴、能力を見極め、その上で女性労働者や女性管理者に何を求めるかをということをしっかり考えてその比率や採用数のアップを考えないと本末転倒になるということである。また、職場の多様性が増すにつれて職場内に同じ属性を持った人が固まり境界が発生し(これをフォルトラインという)、それが組織内の軋轢を生み逆効果を生むことも指摘されている。つまり女性でも年齢、学歴や職歴、国籍など多様な属性を意識して採用しないと弊害が生まれるということである。

    こうしたことを考えると、ブームにのっただけの中途半端なダイバーシティへの取組みは百害あって一利なしということがいえるのではないか。

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