HOW思考からWHY思考へ

社員の当事者意識が低い、仕事の仕方が受け身である、考えて仕事をしていない。経営者とお会いするとよく聞かれる事柄である。その原因は種々考えられるが、面白いのは経営者がカリスマ的で優れたオーナー企業や安定した収益基盤やビジネスの仕組み、圧倒的商品力を構築している企業に多いという皮肉である。こうした企業の場合、経営者が優秀であるがゆえに後継者が育っていない、安定した収益基盤やビジネスの仕組み、圧倒的商品力を構築しているがゆえに社員に危機感がなく、環境の変化に敏感に対応するという行動があらわれにくいという特徴が共通に散見される。こうした企業の管理職の方々とお話すると、直面している課題や目標をどう達成するかというどうやるか(HOW思考)いうことに秀でた方は多いが、そもそも何故といった本質的な意味合いや目的、価値を深く問い直すWHY思考に弱い人が多いことに気づく。特にカリスマ的なオーナー企業の場合、トップが優秀であるがゆえにいろいろなことに気づき、先手先手で手をうって成長してきたという歴史がある。そのため社員にはトップの判断、指示をどう具体化するかやどうこなすかというHOW思考が重視され、そもそもそれは何のために、何故といったWHY思考が重視されない風土が生まれやすい。また安定した企業基盤やビジネスの仕組み、圧倒的商品力を構築している企業も、その強みゆえに、社員に今現在の仕事の仕方に疑問をはさむ余地が生まれにくく、HOW思考に染まっていきやすい。

 企業を取り巻く環境が激変し、今後着実に訪れる人口減少は、否応なく企業を縮小均衡市場へと追い込むことは間違いない。こうした環境では、過去の成功方程式は通用しなくなると思われる。そして、そのことは、企業に社員個々の「考える力」によるイノベーションの重要性を再認識させているように感じる。この場合の「考える力」とはHOW思考ではない。「そもそも何故」、「何のために」といった本質思考=WHY思考をいう。つまり、根本から考え直すことが必要な状況になっているということである。このWHY思考を育てるためには、企業風土において心理的安全や開放性が確保されていることが重要だといわれている。つまり、タブーのないコミュニケーションが可能な風土であることが重要なのである。カリスマオーナー経営者の場合、絶大な権力を背景に組織にタブーが生まれやすい。つまり、その経営者の判断や指示に異を唱えてWHY思考をすることがタブーになることが多い。ある企業では、中興の祖と言われた先代経営者が、本社がある地域出身については来るものはこばまないという採用を長年通してきた。このことを変更するのはタブー視されており、人事担当者も選考基準を設けて選別採用をするということを長年怠ってきたことから、人材不足に陥っていた。また、ある企業では、圧倒的シェアを持つ商品を持っていたために、市場が変化してきたにもかかわらず商品力について問題視することがタブーになって競合の台頭を許し、シェアを逆転された。こうした例を待つまでもなく、HOW思考だけではこれからを生き残ることが難しい時代にきており、物事の本質を深く掘り下げて考えるWHY思考によるイノベーションが社員に求められていることを自覚すべきであろう。

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